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御主人様と二匹の奴隷達の物語

レイが綴る牝奴隷ハルとレイの物語、、、、、。ほんの偶然が、私を、、、。

掌編江戸妄想譚 其の壱

かつて、賢治様の本棚の話をブログに書いた事がある。
純文学、大衆文学、、戦争物から推理小説、、、新刊、古本、、
雑多でとりとめもないけれど、
賢治様曰く、「その時、自分にぴったりくる小説」をお読みだ。

それが、このところ、時代小説がやけに増えている。
昔から、池波鬼平や藤沢作品は多かったけれど、
私の知らない作家さんの短編が、山積みされている。
「現代小説にはない、癒しや情感が魅力」という事らしい。

賢治様のお勧めを何冊か読んで、
私も江戸の時代を放浪する事ができた。


うん、これは使えるぞ。
って、そんな訳で、今回は江戸の話であります。

本所五間堀に居酒屋を構える賢兵衛と、お礼、お春の物語、、。

連作掌編、全五話完結です。

はてさて、どんな事になりますことやら、、
ご用とお急ぎでない皆様、しばしのお時間を、、。



 
************************

居酒屋賢兵衛 
 

居酒屋賢兵衛は、江戸は本所五間堀界隈では評判の居酒屋。
めしがうまい、酒が、そして肴がうまい。
だから、近くの長屋の職人達はもちろん、
夜回りの与力も、お座敷帰りの芸者達も、ふらっと顔をみせる。



「おい、礼、暖簾をしまえ。今晩は仕事にならん。」

夕刻に降りだした雨はさらに強くなって、
店の前を流れる五間堀の水も、だいぶ嵩を増したようだ。
賢兵衛に命じられたお礼は、
油障子を開けて暖簾を片付けだした。

「あら? お礼ちゃん、もう店、お仕舞い?」
「あぁ、お春姐さん。
 えぇ。こんなお天気ですから、お客さんもいなくて。
 でも、、、、、どうぞどうぞ。
 おとっつぁん、お春姐さんがお見えです。」

番傘の雫を振りながら、芸者のお春が店に入る。
主人の賢兵衛に差し出された手拭を、さも当然と受け取ると、
雨に濡れた肩先と下駄の素足を拭いながら、
お春は、板場に横座りして、溜息をついた。

「賢兵衛さん、店仕舞いって時にやって来てごめんなさいね。」
「いえいえ、お春姐さんなら、いつでも大歓迎ですよ。」
賢兵衛は、暖簾をたたみ、雨戸をたてて、
入り口の油障子に心張り棒を掛ける。

「さぁ、これで誰も来やせんから、ゆっくりやってください。
 いつもの茶漬けで?」
「今日は、、、お酒と、、適当に肴を。」
「おやおやめずらしい。今日はお座敷じゃなかったんですかい。」

歳は二回りも上には違いない賢兵衛は、
なぜか、お春を、お春姐さんと呼ぶ。
お礼も、お春とは同い年位かなと思いつつ、お春姐さんと呼ぶ。

「それがさぁ、今日のお座敷は最悪だったのよ。
 その愚痴を聞いて欲しくて、ここに来たんだから。
 賢兵衛さんもお店閉めたんだから、いいでしょ?
 いっしょに一杯やりましょうよ。」

お礼が、酒と炙った畳鰯、煮物と漬物を運んできた。
賢兵衛がお春の猪口に酒を注ぐ。
お春も賢兵衛の猪口を満たす。

「おぉ、お春姐さんに注いでもらえるなんざぁ、光栄、光栄。」
「ね、そういうもんでしょ。
 芸者なんて、酌して三味弾いて、謡って踊って、、、ってね。
 それがね、今日のお座敷は、それがなかったのよ。
 ほら、お礼ちゃんも聞いてよ。」

お礼も、お盆を前に抱いたまま、
うなづき返して話の続きを促した。

「今日の若旦那はね、お店では常連なんだけど、
 私を呼んでくれたのは初めてでさ。
 お座敷で、お初のご挨拶しようとしたら、
 いきなり『白板お春とはお前か?』って。
 それでね、あたしも仕方なく
 『ぱいぱんお春と申します、以後お見知りおきを、』、よ。」

賢兵衛は、にやにやしながら話を聞いている。
お礼は少し身を乗り出すようにして、強くお盆を握り締めた。

お春は、猪口を飲み干して話を続ける。
「それでね、まずは御一献、って酌しようとしたら、
 『酌はいらん。手酌でいい。その白板を見せてみろ。』
 だもの。酷い話でしょ。
 それでも我慢して着物の裾を割って、お見せしたわ。
 そしたらね、『俺の長年の夢だ。』ってさ、
 懐から取り出したのは、なんと麻縄よ。
 苦労しながら、あたしに股縄をして、
 『白板股縄、、。おい、感じるだろ。もっと悶えろ。』
 だって。」

「当然、お春姐さんは、悶えるふりをした?」
「えぇ、お客様ですからね。そしたら、
 『おい、汚門戸、全然濡れてないぞ。』って。
 股縄した女はみんな、おまんこ濡らすと、思ってるの?
 痛いばかりで、なんにも感じなかったわ。
 あの縄男、口だけで、縄使いはへたくそよ。」

お春はよほど腹に据えかねたのか、
愚痴を並べながら、次々と猪口を重ねていく。
お礼は慌てて、台所に燗酒を取りに走る。

「お春姐さんだって、おぼこ娘じゃないんだから、
 男は助平で、いろんな好事家がいる事くらい知ってるだろ。」
「そんな事ぁ先刻承知でも、あれは酷過ぎでしたよぉ、、。」
お春の呂律も少し怪しくなってきた。

「お春姐さんが怒っておいでなのは、
 股縄をされた事ですかい? 
 それとも、股縄で感じられなかった事ですかい?」
「芸者を馬鹿にしてると思うでしょ?
 あんな股縄なんかで感じる女がいたら、見てみたいわ。」

「加虐の好事家がいれば被虐の好事家もいる。
 世の中、そんなもんでござんしょ。」

賢兵衛が、今まで見せなかった不気味な笑みで、
ひょいとお礼に顎をしゃくった。
「礼、お春姐さんに、お見せしろ。」
「あい、、賢様、、、、御主人様、、、、」

「ごしゅじん、さ、、ま?」
唖然とするお春の前で、前垂の紐を解くと、
お礼は、縞木綿の裾を持ち上げた。

「お春姐さん、触ってもいいですぜ。
 きっとぐちゅぐちゅに濡れていますよ。
 礼はこんな女なんです。」

お春の目の前に広げられたお礼の股間には深く食い込んだ股縄。
「ひっ、、、」
吸い込んだ息も吐き出せず、お春はお礼の股間を見つめる。

「お礼ちゃん、、お礼ちゃんも、ぱいぱん、、、、、
 股縄、、、、気持ちいい?」

「あい、しっかりご覧下さい。これが本当のあたしです。」

お礼は顔を赤らめ、うなだれながら、ぼそっと告白した。
同性に見られる事は、男に、とは違った羞恥があるのか、、

お春の白く長い指が、お礼の股縄股間を撫でる、、、
丸く見開かれた眼は、一時もそこを離れない。
亀甲縛りの裸体が、、、、
お礼は、続けて縞木綿を脱ぎ捨てた。
亀甲縛りの裸体が、灯明に浮かび上がる。
お春の、ごくりと唾を飲み込む音が、雨音よりも大きく響いた。

「賢兵衛さんは、実の娘に、いつもこんな事してるの?」
お礼から目を離すことなく、
つぶやくように、そして少し非難げに、お春が言った。

「いや、礼は、娘じゃねぇ。」
「えっ、」
お春が、思わず振り向く。
「親娘、、、じゃぁ、、ないの?」
顔を廻らせ、お礼と目を合わせる。
「あい、人前では、おとっつぁんですけど、、、
 賢様は、あたしの、ごしゅじんさま、、です。」


浮世の裏表を毎晩見ているお春が、
お礼の言った『ごしゅじんさま』の意味を理解するのに、
さほどの時間はかからなかった。
少なくても『主人と女中』というだけではなさそうだ、、。

お春の胸の中で、何かが弾けた。
その震えが乳首を刺激し、そのまま臍から下腹へ、、、
股間が勝手に、じゅく、、、と言い出した。

「賢兵衛さん、、、いぇ、賢兵衛様、、、 
 賢様に縛っていただいたら、あたしも濡れますか?」
気づけば、そんな言葉を口にしていた、、。

「さぁ、それはどうかな?
 痛いだけかもしれんぞ。濡れてみたいか?」

「あい、、お願いいたします、、ご、、、御主人様、、、。」
横座りから、慌てて正座すると、
お春は、深々と額を板場に着けた。

「よし、脱げ、春!!」

「あい、あたくし、、、ぱいぱんお春と申します。
 厳しい股縄、よろしくお願い、、いたします、、、、。」


薄紫の地に萩の花、、、
お座敷帰りのままのお春の着物が床に落ちて、
少しの躊躇いの後に脱いだ襦袢と湯文字の下から、
白い裸体が、無毛の股間が、姿を現した。








もう、雨はあがったのだろうか、
消えた雨音が、大きな静寂を連れてきた。

目を閉じたお春の薄い息づかいだけが聞こえる。




股間で咥える麻縄の瘤が、
お春にとっては、今この時間の全てに違いない、、。




 ******** つづく ******** 

 

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掌編江戸妄想譚 其の弐

 
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新巻鮭 


芸者お春が居酒屋賢兵衛に足繁く通いだしたのは、
しごく当然のなりゆきだったのか、、、。
しかし、期待する股縄をいただける事はなかった、、、。

「雨の日、嵐の日、雪の日、だけ。」

頑なな賢兵衛の言葉に、何度寂しく夜道を帰ったことか、、、




神無月十日、野分が江戸の町を蹂躙するなか、
お春は必死に走った。賢兵衛のあの居酒屋へ、、、、、。

堅く閉ざされた雨戸を必死に叩く。

覗き穴から、室内の明かりが漏れる、、、
誰かが、いや、賢様以外にはありえない。
賢兵衛様が、外をうかがっている、、、、

油障子が、板戸が、きしみながら開けられた。
「馬鹿、こんな日に何しに来た?」
お春は、『こんな日だからこそ、、、』の言葉を飲み込んだ。
「雨が吹き込む。とりあえず入れ、、。」



一歩足を踏み入れて、
その場の重い空気に、お春は身のすくむのを感じた。

天井近くの梁からの縄に、お礼が吊り下げられている。
まるで、、、まるで年の暮れの新巻鮭のように、、、、

「酒が飲みたければ勝手に、飲んでいいぞ。」
そう言われたが、酒を飲む雰囲気ではない。
それに今日は、酒を飲みに来たわけではない。

「お礼ちゃん、、、きれい、、、、。」
自ら漏らしたそのつぶやきで、お春の心は乱されていく、、
独り寝の閨ならば、きっと股間に手が伸びているに違いない、。

「とんだ客が来ちまったな。
 礼、今日のお前は見世物小屋の女だ。しっかり叫べ。」
ささら鞭がお礼の尻を捉え、、、、
その言葉が終わらぬうち、竹ささらの鞭がお礼の尻を捉える。
お礼の体は一度硬直し、口からは大きな叫び声が、、、
そして、、、「ありがとうございます。御主人様、、、。」

「客にも、挨拶!」
「お客様。あたしの淫らな痴態をごゆっくりご覧下さい。」
息も絶え絶えに、お礼の口上は続く、、
「お春姐さん、あたしは、鞭と縄でしか燃えない変態女です。
 もっともっと、あたしを蔑んでいただけますか、、、。」

「お春、礼の汚門戸に指を突っ込んでやれ。
 きっとびしょ濡れだぞ。」
おずおずと差し出したお春の指はたやすく股間に吸い込まれた。

鞭が、お礼の背中で音をたてる。
股間が強く収縮し、お春の指を締め付ける、、、、。
痛みと苦しみと羞恥に耐えるお礼の顔は上気し、
半開きの口から流れる涎は、陶酔以外の何物でもなさそうだ。

「お礼ちゃん、、きれい、。
 、、、そして、、、うらやましい、、、、、。」
賢兵衛に責めてもらえる事がうらやましいのか、
鞭と縄で陶酔できるお礼がうらやましいのか、、、、

そんなお春の言葉を聞き逃す賢兵衛ではなかった。

「お春も、新巻鮭になりたい気分かな?」
「あい、賢兵衛さん、、いぇ、
 賢様、御主人様、、、お願いできますか、、、。」
「よし、、、、春、脱げ!」


もどかしげに着物を脱ぐお春。
長襦袢で、動きが止まった。

「御主人様、、あたし、自分で、、してまいりました、、、。」
まるで蛇のような荒縄が股間に食い込んでいる。

「ほう、いい心がけだ。しっかり変態お春だな、、」
賢兵衛は、そう言いながら、お春を梁に吊るしていく。

「股縄塩鮭と傷だらけの塩鮭、、、、
 さて、どちらがうまい鮭なのかな?」

ささら鞭がお礼を捕らえ、返す鞭がお春の尻を切り裂く、、。

「痛ぁ、がぁぁぁ、、、、」
初めての鞭に、お春の口から叫びがほとばしる、、。

何度目かの鞭の時、
「もう、、もう、、お許しを、、、」
と叫んだお春だったが、次の鞭が乳房を揺らした時、
「も、、、もっと、もっと、、いただけますか、、、」
叫びなのか、喘ぎなのか、、、、
お春の声も心も、、、今は、宙を彷徨っている、、、




板場に転がされた二匹の塩鮭。
「春、よく耐えた。褒美だ。お前を食ってやる。」

お春の潤った股間に、賢兵衛の怒張が突き刺された。
又、大声で叫び声を上げるお春、、、
しかし今度の叫びは、明らかに声色が違っている、、




股を開いたまま恍惚から抜け出せないお春に、
お礼が唇を寄せてきた。
「お春姐さん、綺麗でしたよ。」
「あぁ、お礼ちゃん、、ありがとう、、、、
 あたし、恥ずかしい、、あんなに叫んじゃって、、、」
「大丈夫、叫びを聞いていたのは、あたしと御主人様だけ。
 今日の風と雨なら、隣家には聞こえなかったわ。」






江戸にも、あわただしい師走がやってきた。
今、居酒屋賢兵衛には、女中が二人いる。
芸者置屋に暇を願い出たお春が、
風呂敷包み一つで、居酒屋賢兵衛におしかけたのは、
霜月晦日の事だった。

めし、酒、肴がうまいのは、あいも変わらずだったが、
女中目当ての客も増え、居酒屋賢兵衛は大繁盛だ。






江戸の町には珍しい大雪が降った。
番傘に積もる雪を払いながら、
酔客が居酒屋賢兵衛の前で舌打ちしている。

「あぁ、やっぱりな。この店、うまいんけど、
 雨、風、嵐の時は、きまって休み、、、よぅなぁ。」


『今日休』の札が、風に揺れている、、

、、、その意味を知る客は、誰もいない、、、、、。




 ******** つづく ********
 

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掌編江戸妄想譚 其の参

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雨乞い


「おとっつぁん、一服してくださいな。」
仕込みも一段落した賢兵衛に、お礼が茶を持ってきた。

煙管をふかしながら、土間を掃除するお礼の尻を眺める。
開け放たれた油障子から、細かな早春の雨を感じる。

「色っぽい尻になったもんだ。
 、、、、
 あん時も、冷たい雨が降ってたよなぁ、、、。」

賢兵衛は、十数年前のあの日を思い出していた、、、、。






あの時も、五間堀には冷たい雨が降っていた、、

堀端沿いの柳の下で、泣いている娘がいる。
酒の肴の仕込みをしながら、賢兵衛はその声を聞いた。

「おい、どうした?」
四つ身着物の娘、年のころは十ほどか、、、
「おっかさんが、ここで待ってろって、、
 でも、、いつになっても戻ってこない、、、、」
「風邪ひくぞ、とにかく中に入れ、
 店にいれば、おっかさんが来ても、すぐにわかる。」
店に引き入れても、娘は、外を見続けている、、、。

「おい、名前は、年は? どこに住んでる?」
「あたい、、お礼、、、八っつ、、、家は、、印旛、、、。」
「印旛? 江戸は初めてか?」
「あい、昨日、おっかさんと初めて来た。」
「いつ、おっかさんとはぐれた?」
「今朝、、、この先の店で朝飯を食って、、、、。」
「おとっつぁんは?」
「知らん、会ったこともない。」

在で食い詰めた母親が色街に走ったか、、
どう考えても、おっかさんは、戻りそうにない。
この娘、、、捨てられたのか、、、
まぁ、娘を岡場所に売るよりは、まだまともか、、、

番所に届けるか?、それで済む話か、、、?、
しばし思案の賢兵衛。





「おとっつぁん、葱、足りないなぁ。」
お礼が台所で、今日の仕込みの点検中だ。
生きる事に貪欲で、逞しい田舎娘のお礼は、
いつのまにやら、賢兵衛を、おとっつぁんと呼び、
まるで店を切盛りする、かかぁのようだ。

昼間、寺子屋に通い、帰ると居酒屋を手伝い、
朝は、日の出と共に起きだして、草双紙を読む、
読み書き算盤がうれしくて、楽しくて、
そんな日々を過ごしながら、八年が過ぎた。
、、じきに、店の大福帳も任せられるだろう。




ある日、いつもより早く目が覚めた賢兵衛が見たものは、
明け方近くの薄明かりの下、草双紙を読むお礼だった。
声を掛けようとした口が、そこで言葉を失った。
お礼の目は一心不乱に文字を追いながら、
片手が、股間をまさぐっている、、、、。

そっと寝所に取って返し、あの黄表紙を探す賢兵衛。
もう大人だとはいえ、この裏黄表紙だけはいけねぇ、、、、
お礼が読んでいたのは、草双紙なんかじゃねぇ。
大人の黄表紙、それも世間には出回らねぇ、裏黄表紙だ。
先日、昔から付き合いのある版元が、
酒代代わりにおいていった裏黄表紙。
売りに出せねぇ粗悪品の刷り汚しだ、なんぞと言っていたが、
稚拙な物語とはいえ、
そこに描かれた緊縛女が、やけになまめかしい。
昔の俺のやっかいな癖が、もんぞもんぞと顔を覗かせたほどだ。
お礼は、あれを読んで、股間を濡らしていたというのか、、、
もう、大人だとはいえ、あれはいけねぇ。あれだけは、、、。

翌日も、翌々日も、裏黄表紙を読みふけるお礼を見て、
賢兵衛も、ついに声を掛けた。

「ごめんなさい、おとっつぁん、、、。
 あたしも、こんなの読んじゃいけないっては思いながら、
 どうしてもやめられないんです。
 どうか、一度でいいから、こんな風に縛ってください。」

交差させた手首を前に突き出しながら、
お礼は、深々と頭を垂れた。
乱れたままの寝巻きから、よく育った乳房が見える、、、。

「娘に、そんな事なしない。」
「元々、本当の親娘じゃないんですから、、、、お願い、、」

「馬鹿、おぼこ娘に縄する気はしない。」
「じゃぁ、私を抱いてください。、、男として、、、。」

賢兵衛の褌をまさぐり、口を寄せるお礼、、、。
「おめぇ、いつそんな事覚えたんだ?
 ここに足を踏み込んだら、二度と抜け出せなくなるぞ、、」



お礼が初めて縛められて喘ぎ声を漏らしたのは、
夜具を鮮血で汚してから、三日目の雨の夜だった、、、。




「お礼ちゃんももう年頃。嫁にはいかんのかい?」
酔客にからかわれるお礼は、いつも決まってこう言い返す。

「おとっつぁんが、離してくれないんです。
 あたし、ずぅぅっとここに居て、
 おとっつぁんの骨を拾うことにしたんです。」

賢兵衛は、苦笑するしかない。

実は、捕まったのは俺かもしんねぇ、
離さねぇのは、おめぇだろ。










「おとっつぁん、おとっつぁん、
 どうしたんです? そんな呆けた顔をして。
 雨が強くなってきましたよ。
 お店どうします?」

目の前に、お礼とお春が並んで立っている。
賢兵衛は、思い出から今に引き戻された。

「馬鹿、こんなてぇどの雨で、休みにしてたら、
 おまんまの食い上げになっちまう。」

うつむいたお礼とお春の細い肩が、
「せっかくの雨なのに、、」と言っている。

「だがな、これからもっと強くなるかもしれんから、、、
 股縄だけでも、、するか?」

はちきれそうな二つの笑みが、賢兵衛を見つめている。




日照り続きの百姓でも、これほど雨が好きな奴は居るまい。

こいつら、毎晩、雨乞いでもしているに違いない。
 


 ******** つづく ********
 

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掌編江戸妄想譚 其の四

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花散らし


急に降りだした雨と風が、堀の水面を波立たせている。

「雨ですねぇ、、」
「花散らしの風ですねぇ、、、、」
お礼とお春が、外を見やりながら、つぶやく。

手桶に、沸かした湯と手拭を入れ、
脇に賢兵衛自慢の剃り刀を置き、賢兵衛を待つお礼とお春、。

台所の釜がぐつぐついいだした頃、
賢兵衛が起きだしてきて、大の字で転がった。

賢兵衛の髭をあてるのは、毎朝のお礼の務め。
不慣れで何度か傷つけた事もあったが、今では慣れたものだ。
口吸いのように顔を近づけて、丁寧に髭を剃る。
手拭で拭ってから、糠袋で顔を磨き、
まるで自分の化粧のように、へちまみずを塗る、、、。

満足そうに顎に左手をあてながら、
賢兵衛の右手が、お礼の股間に伸びた。

「お礼、おめぇも髭剃り、だな。」

かつては賢兵衛が剃っていたお礼の股間の髭剃りは、
今では、お春の役目になった。
女二人、重なる髭剃りの格好が、賢兵衛の大好物だ。

赤子のような白板のお春に髭剃りはない。
顔、腕、脛の産毛を剃る程度だ。




朝飯を食いながら、賢兵衛が「雨かぁ、」とつぶやく。
「雨ですねぇ、、」
「花散らしの風ですねぇ、、、、」
お礼とお春が、相槌をうちながら賢兵衛を盗み見ている。

「一日、雨かなぁ、、、、」
「あい、一日、花散らしの嵐です。」

賢兵衛がにやっとして、顎をしゃくる。
花散らしの春の嵐、、
今年は花見遊山はできなかったけれど、
今、お礼とお春は、春の嵐を悦んでいる。

『今日休』の木札が、風に揺れ、
雨戸をたてた室内は、
高い明り取りからの光だけが、全てになった。


「おめぇ達には、いつも苦労ばっかかけてるから、
 ちったぁ贅沢するか。」
賢兵衛が取り出したのは二本の蝋燭。
「わぁ、ろうそくだぁ、これで明るくなりますねぇ。」

武家奉公したこともなく、もちろん花街で遊んだ事もなく、
湯屋の明かり蝋燭がせいぜいのお礼。
確かに蝋燭を灯せば、その明るさは魚油灯明の比ではなかろう。

目を細めて、単純に喜ぶお礼を眺めながら、
ふと、お春を見ると、本能的な恐怖なのか、
それともかつて、お座敷でそんな遊びをされたのか、
真剣で睨むようなお春の眼差しが、賢兵衛を刺している、、、。




うかつに里山に下りて来た姉妹狸を捕らえたかのように、
お礼狸とお春狸を梁から吊り下げて、
賢兵衛は、二匹の尻を撫でまわす。
狸のように縛られて、汚門戸と尻の穴を晒している、、、
「蝋燭なんちゅう贅沢品、
 灯りなんぞに使っちゃぁ、もったいねぇ。
 これが正しい使い方だ。」

蝋の雫を最初に受けたのは、お春の尻。
「ぐはっ、、、ぁ熱っ、、、、、」
お春の腰がはねる、縄がきしむ。

お礼の尻に蝋が落ちた時、
その叫び声は尋常ではなかった。
お礼の叫びを賢兵衛は喜悦と聞いた。
お礼の初めての蝋燭責め、、、贅沢のしがいがあったものだ。

二匹の牝狸が暴れると、
今にも梁が折れそうなほど、、、、、

「こら、おめぇら、暴れるな。
 動くと、ど真ん中に垂れちまうぞ。
 それとも、それを待ってるんか?」

蝋が尻に落ちた時、
汚門戸と尻の穴がぎゅっと縮む様子がおかしくて、
賢兵衛は、代わる代わる、お礼とお春に蝋を垂らし続けた、、。


じっと目を閉じて、
歯を食いしばりながら熱さと恐怖に耐えるお礼とお春、、、



今、、、蝋燭の明るさを、お礼とお春は感じていない。

知っているのは、蝋燭を差し込まれた汚門戸、、だけだ、、、。



 ******** つづく ********
 

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掌編江戸妄想譚 其の五

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幼女お春


お礼に続き、お春の狸縛りの縛めを解いた賢兵衛が、
お春を抱きしめて、「お春姐さん、、、」とつぶやいた。

手首の縄痕をさすりながら、お礼が賢兵衛を振り向く。
お春も、呆けた顔で、賢兵衛を見つめている。
賢兵衛がお春を、姐さんと呼ぶのは久方ぶりだ。

「いや、、お春、、、、おめぇの事、、じゃねぇ。」
つくろうような苦笑いで、賢兵衛がそう言った。

「昔な、俺を男にしてくれた女だ。
 縄捌きも鞭捌きも、お春姐さんに教え込まれた。
 もっとも、お春姐さんが自分で縛られたかった、らしいがな。
 そよなぁ、おめぇらと同じくらいの歳に、
 胸を患ってな、、、、。」
「亡くなったんですか?」
「あぁ、夫婦になろうとまで考えたんだが、、。」

遠くを見つめるようにしながら、
賢兵衛の指先が唇をさする。
お礼が、すかさず煙草盆をもってきた。
「あんがとよ。」
煙り草を煙管に詰めながら、賢兵衛がお春を見遣る。

「俺の事はどうでもいいが、お春、おめぇの郷はどこだい?」
「あい、あたしは、上州谷地窪の生まれです。」
「上州、、それはそれは、
 それがどうして、江戸なんぞに、、、、。」




お春が十五の時、
大店の番頭という男が谷地窪にやって来て、
お春を養女に貰い受けた。
どうしてこんな田舎娘をという父母の疑問も、
支度金という名目の大枚の前では、言葉にならなかった。


江戸の旦那様にお目通りする前には、
女中三人がかりで、体を磨かれ、
結いを解かれ、髪を切られ、振り分け髪にさせられた。
そのまま全裸での、お初のご挨拶となった。

主人は、お春を立たせると、
その無毛の股間に頬を寄せ、いたくお気に入りの様子だった。


お目通りの後、番頭が言い含めるようにお春に言った。

「旦那様は、一昨年、お内儀さんを亡くしましてな。
 お子はおりませんでした。
 旦那様が種無しという噂もありますが、、、。
 そんなこんなで、お子を欲しがりまして、
 ところが、いつのまにやら、その思いが捻じ曲がってきました。
 男のお子ではなく、女のお子が欲しいと、、、
 それも、、、幼女を、、、性欲の捌け口として、、、、。
 まさか、本当の幼女というわけにもまいりませんで、
 あっしが、町々村々を廻りまして、
 ようやく探し当てたのが、お春さん、あんたなんです。」

幼女の代わりに、白板娘を、、、ということらしい。


「あい、旦那様。
 かしこまりました、旦那様。」

お春に許される言葉はそれだけであった。
主人の命じられるままに、様々な格好で股間を開く。
乳房に興味のない主人は、いつも股間を舐め続け、
お春はその涎が、大の嫌いだった。
もちろんお春の望まぬ破瓜の後も、
快を感じた事は、一度も、、なかった。

月のものがくると、主人は途端に不機嫌になった。
幼女に月のものは来るはずがないと、、、、。
股ふさぎに六尺褌姿で、納屋に閉じ込められる事もあった。


お春が十七の時、番頭が新しい娘を連れてきた。
主人の興味はそちらに移り、お春は芸者置屋に売られた。
三味や謡い踊りも、読み書きすらもできぬお春は、
年端もいかぬ娘たちに混じって、小間使いからの出発であった。
あねさんの踊りの稽古を盗み見て、
夜は、お座敷陰の廊下で謡いを盗み聞き、
身を立てようと必死なお春であった。



ぼそぼそと語るお春の身の上話が終わった。

「そよなぁ、お春も人知れずの苦労があったんだなぁ。
 せっかくの芸を、こんな居酒屋に埋もれさせていいのか?」
「あい、あたし、人生で今が一番しあわせですから。」
「ぱいぱんお春、、、、
 ちゅうことは、今は、俺がぱいぱんお春を独り占めかぁ。」

白板の股間を晒しながら、、、お春は、、しあわせだ、、
お春が、柱に縛られ、白板の股間を晒している。
それを肴に、賢兵衛は、猪口を重ねている。
横で酌するお礼も、お春の緊縛姿に見惚れているようだ、、。
むろん、お春も、縄に責められ顔を歪ませながらも、
その心のうちは、、しあわせ、に違いない、、、








紫陽花が咲き、蝸牛が這い出して、
江戸にも梅雨の季節がやってきた。

「おい、知ってるか?
 居酒屋賢兵衛はなぁ、
 肴が傷みやすい、ちゅうこんで、
 雨ん日は、店を休みにするらしいぞ。
 客思いの、意気な店じゃねぇか。」

噂はしょせん噂。
これで、店を休みにしても、誰も文句は言うまい。


二枚の木札が店先で揺れている。
『今日休』『明日休』、、、、

はてさて、今日、明日、、、、
、、そこではどんな痴態が繰り返される事やら、、、、






本所五間掘においでの際は、
ぜひ、居酒屋賢兵衛にお立ち寄りくださりますように。
うまいめし、うまい酒と肴でお待ちいたしております。


、、雨や嵐の日、以外は、、、、






 ******** 完 ********



***************************************
 
言い訳的あとがき


時代考証も何もない。
江戸、と書いただけで、年号を推察する文章もない。
プロの作家さんの作品を読んだ真似とイメージだけで書いた。
風俗も話し言葉も、時代小説もどきだし、
まぁ、いい加減で、お叱りを受けるのは覚悟の上。
いえいえ、叱る事さえアホらしいのかもしれません。

いろいろ、力不足に歯噛みしながらも、
それでも、個人的には、気に入っている。
平成の今の世の中のすぐ隣に、
雨と嵐を恋願うお礼とお春の江戸が、
パラレルに流れているような、そんな愛しい気分だ。

江戸言葉、町民の暮らし、
まともに調べたわけではないけれど、
極めつけで困った言葉がある。
マゾって、サドって、江戸言葉でなんて言うの?
『被虐の好事家、、』いまひとつ、カチッと治まらない、、、。
、、『汚門戸』だけは、もっともらしく書いたけれど、、、。


今回は、勢いだけで書いた。
もう少し、勉強してから、書くべきだったかと、
半分、後悔している。

もっともっと調べて、
もっともっと煮詰めて、
情緒あふれるSМ掌編に挑戦してみたい。

いつになるか、可能かどうかは、わかりませんが、、、、。



じゃぁ、又。        レイ




ps.
時代小説ファンなら、お気づきでしょうが、
居酒屋賢兵衛は、宇江佐真理さんの『鳳来堂』を真似ている。
ついでに、短編「五間掘の雨」から、雨のイメージをいただいた。
もちろん宇江佐真理さんの連作短編は、
ほっこり癒される江戸人情を細かに描いておられる。
こんな卑猥なブログで取り上げる事すら申し訳なく、
この場を借りて、お詫びするしかない、、、。

 

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掌編江戸妄想捕り物控 その壱

ブログが一段落したので、又ちょっと寄り道、、、

居酒屋賢兵衛の物語を、もっと書きたくてウズウズしていた時、
年末に、『女囚縛り』の御調教をいただいた。
家に戻ってパソコンに向かった途端、
あぁ、これ、物語になる、、そんな閃きがあった。

例によって例の如く、江戸風俗や時代考証は、勝手な決めつけだ。
それでもあの時代、貧富の格差はもちろん今以上だったろうし、
貧と富とが直接交わる事も少なかっただろう。

前回は、賢兵衛、お礼、お春を綴った。
今回の主人公は、岡っ引茂蔵、、、

まぁ、よろしかったら、
前回の掌編江戸妄想譚 壱~五を読んでから、
これを読んでいただけると嬉しい。
今回の物語の底には、前回の物語が流れていて、、、
、、そんな連作掌編のつもりであります。




はてさて、どんな事になりますことやら、、
ご用とお急ぎでない皆様、しばしのお時間を、、。

全四話、完結であります。

 
************************

岡っ引茂蔵


岡っ引の茂蔵は、居酒屋賢兵衛を贔屓にしている。
酒と肴がうまいのは無論だが、
一人、徳利を傾けているだけで、酔客の噂話が耳に飛び込んでくる。
そのほとんどは、愚にもつかない事ではあるけれど、
なかには、『ここだけの話だがなぁ、、』
などという、裏話も自然と聞こえてきて、
下手人探索の糸口を見つけた事もある。
「火のねぇ所に煙はたたねぇ、、」茂蔵の、いつもの口癖だ。

主人の賢兵衛、娘のお礼、女中のお春、、、
この三人をなんとか下っ引として使いたいもんだと、茂蔵は思う。
いや、町中を走り回る必要はねぇ。
ここで耳にした噂話を教えてくれるだけでいい、、

賢兵衛に水を向けた事がある。
「居酒屋の亭主なんざぁ、見ざる聞かざる言わざる、ってもんで。」
と、素気無い返答だった。

それでも、昨年正月の『殺し』の時、
「まぁ、なんとなく耳にへぇったんですがね、、、」
なんぞと、あらぬ方を見ながらつぶやいた賢兵衛の言葉で、
一気に件の本筋が見えて以来、
茂蔵は、行き詰ると、この居酒屋でさりげなく愚痴る事にしている。



今晩も、旬の物を肴にお礼に酌してもらいながら、
茂蔵は賢兵衛に愚痴っている。

「昨日、ここから二町程先の堀に、
 土左衛門があがったのを知ってるか?
 与力、同心さん方は、身投げで片付けたい腹らしいんだが、。」
「あっしは物見には行きませんでしたけど、話は聞きました。
 若い娘だそうで、、。
 親分、何か腑に落ちないことでも?」
「検分したらよ、娘の体には縄痕が残っていてなぁ、、
 足抜けしようとして、捕まって、
 焼きを入れられた後に殺されたか、
 途中で逃げ出して、水に飛び込んだか、、、
 そんな気がしてならねぇのさ。
 それになぁ、あの縄痕、、、、
 俺が知ってる捕縛の縄とは、形が違っててな。」
「ほう、、、どんなふうに違うんですかい?」
「手首と二の腕と、、、それに乳の上と下に、、縄痕、、、。」
おもわず発した言葉、、後手高手小手、、、、
傍で話を聞いていたお礼が、
「ごてたかてこて、、、、、」
と、思わず、のように、つぶやいた、、、、
「お礼ちゃん、ごてたかてこて、たぁなんだ?」
「こら、お礼、盗み聞きするんじゃぁねぇ、あっちに行け。」


お礼を追いやると、賢兵衛は、じっと茂蔵をみつめる。
「親分、娘は身投げだった、って事では、いけませんか?」
「いや、身投げなら身投げでいいが、
 俺が、てめぇで納得する必要はある。
 後になって、あれは殺しだった、では気が済まねぇからな。」

賢兵衛は、すぅぅっと息を吸い込んで、
まるで、いやいやするように、その息を吐き出した、、、

「親分、職はもちろん命さえも賭ける事になるかも知れやせんぜ。」

その言葉の意味をはかるように、茂蔵も賢兵衛をみつめ返す。



居酒屋の喧騒の中、二人の視線が静かに交差した、、、。



 ******** つづく ********

 

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掌編江戸妄想捕り物控 その弐

 
*****************************

盗み聞き


「賢さん、俺を見くびっちゃぁいけねぇ。
 お上から十手を預かってこのかた、
 強請りたかりはもちろん、袖の下も断り、
 俺が信じる正義を貫いてきたと自負してる。
 あの娘が、殺し、だって言ぅんなら、
 俺ぁ、職でも命でも賭けてやる。
 十手を返しても、かかぁの仕立て屋で、食うには困らねぇ。」
猪口をぐいっと飲み干して、茂蔵は啖呵をきった。


「勘どころがずれているかもしれやせんが、
 ど素人のあっしの独り言、、、、、」
「いや、こんな時こそ、ど素人の方が、しっかり物が見えてる。
 おい、お礼ちゃん、熱いのをもう一本。」
熱燗を運んできたお礼が去るのを待って、賢兵衛が話し出した。

「先日親分がおっしゃってた、最近増えてる近在の『神隠し』、、
 この件と繋がりやせんか?」
「あの死んだ娘の身元もまだわかっちゃいねぇ。
 俺も、そんなところかと思ってはいたんだが、、、、。」
「そして、親分がおっしゃったあの縛り、、、
 後手高手小手、、縄好きの好事家がよくやる縛りです。」
「縄好きの好事家?、、、
 変態縄師、、、ってやつか?」
「おそらく、、、。」

お礼が、頼みもしない肴を運んできた、、、。
お礼もこの話が聞きたくてしょうがないらしい。
賢兵衛は、邪険に追いやる。
女を縛って喜ぶ変態がいる、、、、
「女を縛って喜ぶ変態がいるって話は聞いた事がある。
 ってぇ事は、、、、
 あの娘、、、、近在からさらわれて来て、
 無理やり縛られたあげくに、玩具にされて犯されたと?」
「それも、、、、そんな噂が親分の耳に入ってねぇって事は、
 その辺のやさぐれ木っ端の仕業じゃなく、、、、
 貧乏人が近寄れない大店の旦那連中か、
 あるいはお武家さんも絡んで、、。」
「もしそうなら、許せねぇな。
 金持ちの道楽で、あの娘、、
 弄ばれ、そのあげくに、殺されたか、身を投げたか、、、。
 いや、それだけじゃぁねぇ。
 まだ、他にも、たくさんの娘たちが、、、、」

茂蔵はよほど腹に据えかねたのか、怒りをぶつけるように、
猪口ではなく、徳利に口をつけて、そのまま飲み干し、
乱暴に腰を上げた。

「賢さん、あんがとよ。
 その辺から、当たりをつけてみる。」

「親分さん、くれぐれもお気をつけて。
 与力様、同心様が『身投げ』で片付けようとしている事、
 それだけは、お忘れなきように。」








茂蔵の憤怒なのか、酒が辺りに飛び散っている。
そこに布巾をかけながら、お礼がつぶやいた。

「娘さんの仇、ぜひ討って欲しいですねぇ、賢様。」


こいつ、やはり盗み聞きしていやがった。



 ******** つづく ********

 

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掌編江戸妄想捕り物控 その参

 
*****************************

見ざる聞かざる言わざる


手掛かりを求めて終日走り回っているに違いない茂蔵が、
ある晩、疲れきった体で、居酒屋賢兵衛にやって来た。

「親分、何か手掛かりはありやしたか?」
「いや、今んとこ、なんも見えねぇ。
 土左衛門の『ふくれ』が少ないところから、
 この堀の近くの上から流れてきたとあたりをつけたんだが、、」
「大店の旦那衆の住まいや、武家屋敷では手が出せねぇ?」
「おぉ、そうよ。よほどの証でもない限りはな。」

お礼が酒と肴を運んできた。
その腕を、むんずと捉まえて、茂蔵は、懇願するように言った。
「お礼ちゃん、なんか、とりわけの噂を聞かねぇか?」
驚いたように、一歩さがって、お礼が答える。
「居酒屋の娘、女中は、見ざる聞かざる言わざる、です。」
「てぇ事は、、、、、、何か見たか?、何か聞ぃたんか?」
望まぬ痴態を晒している娘たちが、、、
茂蔵は、賢兵衛を振り向く。
「賢さん頼む。見ざる聞かざる言わざる、、は、分かった。
 じゃが、こうしている間にも、
 たくさんの娘達が、望まぬ痴態を晒しているのかもしれん。
 頼む、、、、。
 お礼ちゃんの言葉に、つぶやかざる、、は、無かったぞ。」


賢兵衛は、まるで板戸の木目を数えるように、
あらぬ方向を見ながら、口を開いた。

「むぅぅん、、、最近、急に金回りがよくなった、、、
 口入れ屋と大工、、、そんな噂を聞きやしたねぇ。
 その口入れ屋は、あこぎな男で、
 金のためなら、人さらいもしでかす奴だとか、、、。
 こっからは、勝手な想像ですけんど、、、
 たくさんの娘を集めたら、、、、
 閉じ込める座敷牢も必要で、、大工に秘密仕事を依頼、、。」

「うんにゃ、賢さん、もう一言、つぶやいておくんなせぇ。
 その大工は、どこで仕事をしたんだろねぇ?」

「さぁ、、、上総屋、、とは聞こえましたけんど、しかとは。」









「上総屋の本宅に盗人があったってよ。
 それが、どじな盗人で、なんも盗らずに逃げちまったらしい。」

三日後、居酒屋賢兵衛では、そんな話でもちきりになった。





茂蔵親分、、職と命を賭けちまったかぁ、、、


賢兵衛は、密かに願っている。
茂蔵に、なんのお咎めも無い事を、、、、。



 ******** つづく ********

 

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掌編江戸妄想捕り物控 その四

 
*****************************

火のないところに


「親分、上総屋に盗人があったってねぇ?」

今夜の茂蔵は、荒れている。
次々と猪口を重ねながら、賢兵衛に答えた。

「おぉ、そうらしいなぁ。
 聞いた噂では、何も盗らなかったけんど、
 そこにいた娘達が、盗人と一緒に消えたらしい。」
「その娘達は、どうなったんでしょうねぇ?」
「これも聞いた話だけんど、
 しっかり、在に帰ったらしいぞ。」
「それはそれは、よござんした。」
「おぉ、盗人も初めての荒仕事で、苦労したかもしれんなぁ。」
「、、ご無事で何よりでした、、、、」

賢兵衛は、茂蔵に酒を注ぐ。
すぐさま、その猪口を干して、茂蔵が続ける、、
縄を、、、忘れられない、、、、
「ところがな、、、、
 そのなかの娘の一人が、又、江戸に舞い戻った、という噂だ。
 縄が、、忘れられない、、と言ってな、、、、。」
「それはそれは、、、、、娘の自分の意思とはいえ、、、
 被虐の質を持ち合わせてたんでしょうかねぇ。
 上総屋に責任を取らせるって訳には?」
「上総屋はだめだ。
 ただの遊びで、娘の面倒を見る気はなかろうよ。
 罪を全部、口入れ屋におっかぶせて、知らんぷりだ。
 お上のお咎めも、人さらいの口入れ屋だけだ。
 あの死んだ娘の件も、結局『身投げ』で、けりがつきそうだ。
 その原因が上総屋の辱めにあったとしてもだ、、、。
 俺はそれが気に入らん。
 おい、お礼、この店の酒、全部持って来い。」

「あらあら親分さん、今晩はお酒、すぎてますよ。
 もうお店、仕舞いますから、又、明日おいで下さい。」



茂蔵を送り出したお礼、片手を差し出しながら、
「賢様、雨です、、、。
 娘さん達の羞恥の涙? それとも親分さんの悔し涙かしら。」

隣でお春が、降りだした夜空を見上げて言った。
「江戸に戻った娘さん、
 素敵な御主人様とめぐり合えるといいですねぇ。
 あたし、、、みたいに、、、、、、」










かかぁの仕立物の中から頼み込んで、
女物の足袋を二足、懐に入れた。
「いや、浮気じゃぁねぇ、世話になったんで、その土産だ。」


足袋を懐に、居酒屋賢兵衛の前で、茂蔵が歯噛みしている。
「ちぇ、なんでぇ今日は休みけぇ。」

ここんところ、雨が少なくて忘れていた。
居酒屋賢兵衛は、雨、風の日は、なぜか、休みだ。

茂蔵は、雨空を見上げながら、ふと、お礼の言葉を思い出した。

「後手高手小手縛り、、、、、
 お礼、、おめぇ、なんでそんな事を知ってるんだ?
 ただの居酒屋の娘の耳年増、、、なんかぁ?
 、、、、、
 火のねぇ所に煙はたたねぇ、、、、、」

茂蔵は、思わず、そうつぶやいた。







居酒屋賢兵衛、、、、、
店の軒下では『今日休』の木札が雨に濡れている、、、



 
 ******** 完 ********

 
*****************************

あとがき的無駄話


いつもの事ながら、
ブログの検閲官であるハルさんに、この下書きを見せた。

「だめ、なっちゃいないわ。」、との酷評だった。

どこが?

「物語としては、おもしろい。
 あからさまのSMじゃないところに、情緒すら感じる。
 でもね、お春に一言の台詞もない。
 なにか私にもしゃべらせてよ。」
いや、今回の主人公は、茂蔵だから、、、、
「だめ、私にもなんか言わせて。」
いやぁ、それに、お春はハルさんじゃないしぃ、、、、。

しかたがない、、最終話に、お春の言葉を差し込んだ。

これでどう?
「うん、まぁ、、いい。
 M女を思いやる私の優しさがでてるわ。」
ちゃう、お春はハルさんじゃないって、言ってるだろがぁ。



「レイさん、もう次の江戸物語、考えてる?」
まっさかぁ、、今やっと書き終えたばかりだよ。
次の物語なんて全然よぉ。

「だったらさ、次の物語では私を活躍させてよ、ね。」

オイオイ、だからぁ、何度も言わせるな。
お春はお春であって、ハルさんじゃぁねぇ、、、、。




そんなこんなで、、、
次はどうなりますことやら、、
いえいえ、、次がありますことやらどうやら、、、、、、、



じゃぁ、又。        レイ
 

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掌編江戸妄想奇譚

居酒屋賢兵衛の話を、もっともっと書きたくなって、
あぁでもない、こぅでもないと、自虐的にもがいていた。
ある時、前回書いた『あとがき的無駄話』から、
フト思いついて、今回の話ができた。

この話だけでそれなりに完結しているとは思っているけれど、
やっぱり、賢兵衛やお礼やお春の話が前提なので、
まぁ、よろしかったら、
前前回の掌編江戸妄想譚 壱~五
前回の『掌編江戸妄想捕り物控 壱~四』を読んでから、
これを読んでいただけると嬉しい。


はてさて、どんな事になりますことやら、、
ご用とお急ぎでない皆様、しばしのお時間を、、。

性懲りもなく又、江戸物?
なんてお思いの皆様、ごめんなさい。
これを区切りに、江戸物からは離れようと、、、、

今回は、一話完結、であります。

************************

れい


 
キッチンで食器を洗っている時、
レイは、貧血のように意識が遠のくのを感じ、
手にしたガラス食器が、ゆっくりと床に落ちていくのを見た。
「あぁ、、、割れちゃう、」、、、、、

カラン、、カラン、、、
板場に落ちた木の椀が、軽い音を立てながら回っている。
何事かと振り向く賢兵衛の気配がする。
「申しわけございません、御主人様。、、粗相いたしました。」
その時お礼は、椀を拾いながら不思議な違和感をいだいた。

悪寒がする。
掻巻を肩まであげようとした時、声がした。
「レイさん、気づいたのね。
 だいじょうぶ? キッチンで倒れたから、びっくりしちゃった。」
「、、、、あぁ、ハルさん、ごめん。大丈夫よ。」
辺りを見回す。御主人様のベッドに寝ている、、、
「でも、まだちょっと、寒い、、。」
レイが握っているのは掻巻ではなく、、、毛布だ。
レイは、毛布を被りながら、不思議な違和感をいだいた。




気持ちは充分受け入れようとしているのに、
体が、それを拒否している。
「お礼、ここの穴は初めてだろうが、
 けつめどまで使えるようになって、いっちょめぇの変態女だ。
 おら、もっと息を吐いて、力を抜け。」
賢兵衛は、指を尻の穴をほぐすようにして刺し込んだ。
あなる、、、お礼の頭の隅を、そんな言葉が行き過ぎる。
あなるって、、、なんだっけ、、、、。
「痛いです、御主人様、お、、お許し下さい、、、。」
そう叫びながら、お礼は、
その穴の快感を、既視のように感じている、、。

「レイ、いい締まりだ。」
御主人様の声で、すーっと意識が帰ってきた。
深く挿入されたペニスからのドクドクを感じて、
レイも、アナルを緊張させながら、ご一緒に果てる事ができた。
フゥーっと、吸い込んだままの息を、やっと吐き出しながら、
「そうかぁ、アナルは、ケツメドって言うんだ、、、」
そっと、つぶやくレイ、、、。




「レイさん、このごろアクメも縄や鞭の酔いも深くなった?」
御主人様はもうお休みだ。
ハルと二人、ワインを飲んでいる。

「うん、深くなったのかどうかは分からないけど、
 意識がどこかに飛んでいくのを感じる、、
 不思議な感覚なのよね。
 プールのウォータースライダーを滑り落ちてる感じ。
 でもね、キャァキャァは言ってないのよ。
 後手縛りなら、そのままの格好で喘ぎながら滑り落ちてくの。」
「ふーん。滑り落ちた先は、どこなのよ。花園?」
「あのね、たぶん、江戸、、、、」
「江戸って、江戸時代って事。」
「うん、あの居酒屋賢兵衛にいるお礼の中、、、、。」
「江戸のお礼さんと現代のレイさんが入れ替わってるって事?」
「あぁ、それは気づかなかったなぁ。
 そうかぁ、私の意識が江戸に行っている時は、
 江戸のお礼さんの意識は、私の体の中にあるのかなぁ?」
「あぁ、それアタリかも、
 時々、仕草や言葉使いが変な時あるもん。」


意識だけが、江戸と現代を行き来する、、、、
そんな事、ありえるのだろうか、、
ましてや、レイとお礼の意識が入れ替わるなんて、、、、、

しかしながら、現実に、レイはそれを体験している。
先日も、水道の蛇口をひねろうとして、
実際には、水がめの柄杓を握っていたし、
レンジのコックを回そうと思いながら、竈に薪をくべていた。
意識は現代人のレイでも、お礼の体は江戸の生活を続けている。




私の指先は、マンションの壁?、、居酒屋の羽目板、、、、?
今日は鞭打ちの御調教だ。
マンションの部屋の壁に両手をついて、お尻を突き出す。
「卑猥でいい格好だぞレイ。歯を食いしばれ!」
賢治の容赦のないバラ鞭が、レイの尻を切り裂く。
「あぁ、、あ、、ありがとうございます、、御主人様ぁ、
 あっ、あっ、イキます、、イッちゃいます、、、。」

崩れそうな体を、羽目板に伸ばした指先で必死に支え、
隣の、お春を責める鞭音を聞いている。
お春の尻や内股に当たるささら鞭のその音だけで、
お礼は自分の股間が濡れていくのを感じている、、、。




「御主人様、御調教ありがとうございました。」
「おぉ、久々の鞭打ち、ちょっと俺も疲れたな。飯にするか。
 疲労回復、精力増強、、、
 ニンニクたっぷりのぺペロンチーノ、厚切りベーコン添え、
 で、どうだ?」
ペペロンチーノ?
、、、しばし考えて、あぁ、、、と納得した。


「これはうまいなぁ。お礼も料理の腕を上げたな。」
賢兵衛が猪鍋を突付きながら、お礼を褒めた。
「あい、ありがとうございます。
 今朝方いただいた獅子肉に大蒜という薬草をからめてから、
 鍋にいたしました。
 獅子の臭みが消えて、味が増します。
 聞いた話では、大蒜は疲労回復、精力増強になるとか、、。」
「お礼、おめぇ、もしや、もう一鞭欲しいって言ってるんか?」

今日も雨が降っている。
この冷え込み、、、やがては、氷雨に変わるかもしれない。
雨の日のしあわせ、
こうして三人で食事ができるしあわせ、、、
食事が終わったら、もう一責め、いただけるのかしら、、
密かにそんな事を考えている、、、、。

「うまい、もう一杯。」
賢兵衛の差し出す椀を、レイは微笑みながら受け取った、、、







「うまいうまい、レイの料理は最高だな。
 おい、おかわりあるか?」

スパゲッティを器用に丸めて口に運ぶ賢治とハルを、
お礼は微笑みながら見つめている、、、、、、、





 ******** 完 ********

***************************************
 
あとがき的口上


前回の『あとがき的無駄話』で書きましたように、
ハルさんが完全に物語に入り込んでしまいまして、
お春とハルを混同してしゃべっていた事から、
今回の話をひねり出しました。
『時をかけるМ女』って感じでしょうか?

試行錯誤しながら、
筆も硯もないのに容易く文章が綴れる不思議な『からくり箱』で、
今回の物語を書いていた時、
背後から覗き込んだハルさんを「お春さん」と呼んだ私、、、。
もしやあたしは、『お礼』なのかしら、、、

今日は雨、、、、
居酒屋賢兵衛も、雨降りでしょう。
雨戸を閉ざした、あの薄暗い部屋の中、
レイさんは、素敵な責めをいただいているに違いありません。


賢兵衛様
こちらの世界にも、
賢様のように逞しい賢治様という御主人様がおいでです。
いつの日か、又お会いできるその日まで、
賢治様にお仕えしようと想っている今のあたしです、、、


それでは、かしこ    お礼
 

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掌編江戸人形屋秘譚 其の壱

ちょっと寄り道です。

お盆に紗江さんの料亭でお座敷遊びもどきがあって、
五間掘りの話もしたし、三味線で『深川』も聞かせていただいた。
その時から、江戸物掌編を、又、書きたいなぁ
なんぞと思ってはいたのだけれど、
設定も流れも思いつかないまま、忙しい日々が続いていた。

猛暑、酷暑と騒がれた夏だったが、
盆明けと共に季節が秋に移ろうとしている。
あぁ、季節の移ろいの中で江戸風物を描けたら楽しいかなぁ、
そんな事を考えて、今回の物語をひねり出した。

場所は本所六間掘り、とある人形屋のお針子、お輝の物語。
とりあえず全三話、、、

お代は読んでのお帰り、、
御用とお急ぎのない方は、遊んで行ってください。



**************************

吊るし雛 お紺


お針子として、六間掘り近くの人形屋に職を得たお輝であったが、
まだまだ新参者、ここのしきたりは何も知らない。

「お披露目ぇ、お披露目ぇ、、、、」
霜月晦日、夜も更けて、もう床に入ろうとする頃に、
番頭の大声が、裏長屋中に響き渡る。

長屋の同じ部屋に暮らす先輩お針子のお勝が、
なにごとかとおろおろするお輝の掻巻を剥ぎ取り、飛び出す。
井戸端に集まった女達は、全員湯文字一枚で震えている。
冷たい夜風は、容赦なく女達の肌に突き刺さり、
両肩を抱えた腕の隙間から、その乳首さえももぎ取ろうとしている。
逆さ吊るし雛 お紺、、、、
「この度、目出度くも、上女中お紺が柊屋さんに見初められた。
 その鍛錬の成果を今夜披露する。」
番頭の口上で、前に引き出されたお紺。
肩から滑り落ちた寝間着の下の後手縛りの裸身が、
小さな篝火の明かりで揺らいでいる。
三人がかりで桜の樹に逆さに吊られたお紺に、
番頭がささらの鞭を振るい、
「逆さ吊るし雛、生き人形お紺のお披露目、、、、」と。
お紺の叫びと、それを見つめる女達の控え目な拍手は、
たちまち北風でどこかへ飛ばされてしまう、、、、、


長屋に戻っても、お輝は興奮して、眠るどころではない。
「あれはいったいなんだったんですか? 
 見初められたはずのお紺さんが、なんであんな格好なの?
 鍛錬ってなに?」
傍らのお勝に詰め寄る。
「見初められたと言っても、
 嫁ぐわけでも囲われるわけでもない。大枚で売られたのよ。
 きっと柊屋さんの特別注文だったんでしょ。」
「特別注文って?」
「表店の人形職人は、季節の人形職人であると同じくらいに、
 腕のいい生き人形職人でもあるらしいわ。
 大店や御武家さんの好みに合う生き人形をこさえるのが特別注文。
 女中を生き人形に変えていくのを鍛錬というらしいわ。」
「でも、上女中さんって、嫁入り前の行儀見習いでしょ。」
「世間体はそうだけど、ここでは違うわね。
 この長屋のお針子や下女中からも上女中にさせられて、
 母屋で暮らすようになった女が何人もいるわ。」
「生き人形にされちゃうの? あたし達もそんな事があるの?」
「あんた、質問が多すぎるわ。」
「でも、なんか怖い。」
天井板のない長屋の冬の寒さはとりわけ厳しい。
それでも掻巻にくるまって、二人のひそひそ話は続く、、
「そんな怖がってばかりいてもしようがないわ。
 お紺さんが生き人形になったおかげで、いい事もあるのよ。」
「いい事って?」
「明日はお紺さんの御輿入れの日だから、
 邪魔なお針子と下女中はお休みなの。
 紅白の餅と小遣い五拾文が配られて、、、、
 見て見ぬふりをしろ、というわけ。」
「でも、本当の御輿入れじゃぁないんでしょ。」
「だからそれは建て前よ。
 馬でなのか輿で行くのかは知らないけど、
 人目が無くなった途端、
 犬猫のように四つん這いで御輿入れ、かもしれないわね。
 あたし達はそんなこと知ったこっちゃないわ。
 せっかくのお休みだから、広小路の見世物に行きましょか。
 五拾文あれば、甘い飴菓子も天婦羅もたべられるわ。」


お紺の犠牲で得られる休みと五拾文が腑に落ちないお輝だった。
しかし、あの逆さ吊るし雛になったお紺の表情が、
叫びとは裏腹に、陶酔さえも感じているように思えたのは、
薄暗がりのせいだったのか、目の錯覚だったのかと、
いつまでたっても眠りの浅いお輝であった。




 ******** つづく ******** 

 

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掌編江戸人形屋秘譚 其の弐

**************************

かざぐるま お鈴


師走の十四、十五日は深川八幡の歳の市。
目のまわるような忙しさで作りためた正月飾り羽子板を、
手代や丁稚と一緒に大八車で八幡様まで運び、
声を枯らして客を呼ぶ売り子もお輝の仕事だった。

疲れ果てて裏長屋に戻り、井戸端で足を流すお輝に、
「お疲れさんでした。」
と声をかけてきた下女中がいた。
同じ裏長屋に住いながら、
下女中とお針子は、ほとんど話をしない。
井戸端で顔を合わせても、下女中は黙って目を伏せるだけ。
母屋に暮らす職人、上女中とまではいかないまでも、
お針子は下女中よりは上の位と定められている。
お輝がここに来たばかりの頃、そんな事とはつゆ知らず、
誰彼かまわずのお輝の自己紹介に、
「あたし、お鈴です。」と答えた下女中がいた。
お疲れさん、の声は、そのお鈴であった。
お輝は、自分で柄決めした羽子板が売れた時の喜びを、
何度も何度もお鈴に話して、、、
お鈴も、自分の事のように喜んで、何度も何度も頷いて、、
そして、、、
「お輝さん、こんな下女とお話ししてくれて、
 あたしは、とっても嬉しかったです。ありがとうございました。
 あたし、上女中になるよう、番頭さんに言われました、、」
釣瓶桶の水が着物の裾を濡らすのにも気づかず、
あんぐりした口から、お輝はようやく言葉を発することができた。
「お鈴さん、、、上女中に呼ばれた意味を分かってるの?」
「あい、分かっているつもりです。
 あたしは、口減らしのように在から出てきましたから、
 帰る実家もありませんし、身を立てる術もありません。
 せめて、お輝さんのようなお針子さんになりたかったです。」

事情は違えど、お輝とて帰る実家はない。
早くに親を亡くし伯母に育てられたお輝は、
初潮がきて二年目には、追いだされるように結婚させられた。
婚家にとって必要なのは、お輝の労働力と跡継ぎを孕む子宮だけで、
子を孕みそうもないお輝に、離縁状が突き付けられたのは、
三年目の初秋であった。
生来の器用さと、労働力としていつの間にか鍛えられた針仕事で、
今、この人形屋のお針子として働いている。



人形屋には、正月も、ましてや正月藪入りもない。
弥生人形作りに追われて瞬く間に過ぎた睦月晦日、、、、、
「お披露目ぇ、お披露目ぇ、、、、」
夜も更けたころ、番頭の大声を又、聞く事となった。
お輝は、嫌な予感にかられながら、湯文字姿で井戸端に急ぐ。
集まった女達をかき分け、一番前に進み出ると、、、
やはりそうであった。
死衣装のような白い寝間着が肩から落ちる。
亀甲に縛られたお鈴が、胸を張らんばかりにすっくりと立っていた。
絞り出された乳房さえも、なぜか誇らしげだ。
「この度、目出度くも、上女中お鈴が上州屋さんに見初められた。
 その鍛錬の成果を今夜披露する。」
かざぐるま お鈴、、、
それから、女囚を問い詰める拷問縛りのように吊るされたお鈴。
股も割れ、見つめるお輝にすべてを晒している。
「吊るしかざぐるま、生き人形お鈴のお披露目、、、、」
番頭が何度もお鈴の体を押し回転させ、そのまま手を放すと、
ねじられた吊り縄の反動で、お鈴は逆に回り出す。
苦痛の呻きをあげながら、目は前を見据え、
回転のたびに、しっかりお輝と目を合わせようとするお鈴、、


回り続けるお鈴のあられもない裸体に、
別れの涙を流しながら、いつまでも拍手を送り、
せめてもの幸があらんことを願うお輝であった。




 ******** つづく ******** 

 

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掌編江戸人形屋秘譚 其の参

**************************

短冊 お京


ほんの近くにありながらも隅田堤の花見にも行けず、
井戸端の桜を見るだけで、弥生卯月は端午人形作りに追われた。

今日の仕事にかかろうとする時、お針子の間で囁きが広まった。
「お京さんがいない、、、、、」
囁きはそう言っている、、、、、
手代がお京と同部屋の娘を手招きする。
「床に入る時までは隣にいましたけんど、、、、」
いつ出かけたかは知らない、、と声を震わせる。

いかにも無宿風体の男達と丁稚が表道を駆け出していくが、
じきにお京を連れて戻ってきた。
弥勒寺の境内に身をひそめていたとか、、、
土間に額をこすりつけるようにして、平謝りのお京。
手代は、何も言わず裁縫箱を指さした。
お京を叱るより、まずは急ぎ仕事が先と言っている、、、、
息をつめて見守るお針子達も安堵のため息をもらした。


根を詰める針仕事は肩が凝る。
お輝とお勝は互いに肩を揉みあって、もう床に入ろうとする頃、
「お咎めぇ、お咎めぇ、、、、」
手代の声が裏長屋に響き渡る。
湯文字姿の女達の前に、
まるで捕えられた狸のようなお京が、桜の樹に吊られている。
「暇を願い出ることなく、足抜けを謀った罪は重く、
 鞭打ち百の刑に処す。
 又、同じ長屋に住みながら、
 その足抜けを見落とした者にも咎あるをもって、
 鞭打ち役は、針子、下女中とする。」
お咎めかぁ、、、、同じ樹に吊るされたとしても
お披露目とはその場の雰囲気がまるで違う、、
ましてや、鞭打ちまでさせられるとは、、、、
「餅も小遣いも休みもないしね、、、」
隣でお勝が、もっそりとつぶやいた。
短冊 お京、、、
一番前にいた下女中に篠竹の鞭が渡される。
「針子と下女中、日頃の身分の差に不満もあろう。
 尻でも背でも、乳でも汚門戸でも、
 気がすむまで、お京を鞭打っていいぞ。」
当然の如く下女中達の鞭は厳しく、早くも袈裟掛けに血が滴る。
「ひとぉつ、ふたぁつ、、、、、」
鞭の数を数えさせられていたお京の声は、叫びに変わり、
呻きに変わり、やがて声も出なくなって、数も知れなくなった。
同部屋のお針子娘に鞭が手渡される。
躊躇う娘の乳房を、手代の鞭が急かす、、
血の滴る傷口をさらに鞭打たれればさらに痛いに違いない。
お輝は、傷のない個所を選んで、鞭を三回振るった、、

血にまみれ赤く腫れたお京の尻が夜風に揺れる、、、
故郷に帰りたい、そんな願い事が書かれた短冊のようであった。



「お京さん、ちゃんとお暇願いすればよかったのにねぇ。」
夜具にくるまりながら、傍らのお勝に話しかけるお輝。
「そんなお暇願いが許されると思う?
 隅田川に浮かばなかっただけでも、お京さんよかったわ。
 あたし達、この人形屋の裏仕事、知ってしまってるのよ。
 あたし達がここから出ようと思ったら、
 自分で首をくくるか、労咳で追い出されるか、
 生き人形になって売られていくかしかないのよ。」
「お鈴さん、どうしてるかなぁ、、、、、」
「あんがい幸せになってるかも知れないわ。
 生き人形にされ、縛られ吊るされた女達は、
 叫びながらもその辛苦を悦んでるようにも見えたもの。
 そんな被虐の性を引き出すのが人形職人の技なのかなぁ。」


縄で縛られるって、樹に吊るされるってどんな気分なんだろう。
ふとそんな事を考えてしまって、
慌てて首を振り、それを否定したお輝であった。



 ******** 未完、、、 ********



***************************************
 
進歩のない言い訳的あとがき

例によって例の如く、時代考証も何もない。
江戸、と書いただけで、年号を推察する文章もない。
風物や季節の行事によって、
江戸の初期、中期、後期と分かるのかもしれないけれど、
例によって例の如く、
何も考えずに、盛り合わせ定食状態なのはお許し願いたい。


人形屋さんは季節を先取りする商売なのだろう。
そんな人形屋を舞台にして、
季節の移ろいを織り交ぜたSM掌編を書きたかったのだけれど、
力量不足と勉強不足が重なって、それらしく、で終わった感じ。

『生き人形』は稲川淳二さんの怪談話ではない。
『生人形』、『活人形』、、生きているようなリアルな人形。
そんな人形が昔からあったそうだ。
それを逆に解釈して、人形職人が調教してM女を作る、、
という設定にしてみた。

吊るし雛という単語にも、モゾモゾした気分を持っていた。
元々は、高価な雛人形を買えない庶民が、
端切れで作った小さな人形等を糸に吊るして飾った物らしい。
けれどSM的解釈では、そうじゃぁないだろ、、って。

物語は『未完』という形で、終了させた。
やがてはお輝が生き人形に、、そんな流れが見え見えで、
なんかお約束じみていて、ひねりが足りないなぁ、、
というのが、未完で終わらせた本音だ。


端午の節句が過ぎて、梅雨、そして夏、、
お輝は隅田川の花火を見に行けるのだろうか。
暑い夏をどうやって過ごしていくのだろうか。
豪商の旦那衆が借り切った屋形船でのSM祭もいいよなぁ、、
アホみたいな妄想は広がるけれど、
まだ、お輝のその後は、見えてこない。
やがて、いずれ、そのうちに、又、お輝に会いたいと思っている。


じゃぁ、又。          レイ
 

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掌編人形屋秘譚 其の四

ちょっと寄り道です。

『未完』のままで放り出してしまった人形屋秘譚、、
その後、気にはかけながらも、物語の展開が思いつかず、
あぁでもない、こぅでもないと、もがき続けていた。

やっぱり、お勝とお輝も吊るされて、さらし者、かなぁ、、
なんぞと思いながら、とりあえず筆を進めてみたら、
彼女たちが勝手に動き出してくれたので、
それに任せて、物語を展開させてみた。

ご不満もおありでしょうが、御一読を。
其の四から其の七、、全四話です。

お代は読んでのお帰り、、
御用とお急ぎのない方は、遊んで行ってください。


**************************

女軽業師 お峰 


細かな指示のある事もあるが、
ほとんどの場合、人形職人の心像に沿うように、
それを探りながら、人形の着物の柄や形を決めていく、、
それも、お針子の仕事だ。
職人から出来栄えを褒められると、お輝は喜び、
やがてはそれが針子仕事の張り合いとなっていったが、
いつもいつも、同じ人形職人と仕事をするわけではない。
お輝とお勝はここ二月ほど、定吉に付いていた。
付く職人が変わるたびに、お輝は身を小さくする。
だれが『生き人形』職人なのか分からないからだ。

今の季節、一時ほどの慌ただしさはない。
職人定吉の気分しだいで、
夕の七つ下がりには、その日の仕事が終わることもある。
そんな時は、夕涼みがてら隅田のほとりを歩いたり、
屋台を覗いて冷や蕎麦を食べたりしていた。

お勝と連れ立って、評判の見世物を見た時の事、、、、、
上方女軽業師の曲芸に驚きながらはしゃぐお輝を尻目に、
「あれ、上方女軽業師じゃないわ。も一度見てみよ。」
と、お勝はつぶやき、見世物小屋の木戸口に向かう。
「残念だったなぁ、この刻からは夜の出し物なんよ。
 女人禁制、、明日又来ておくれ。」
お勝を追い払うように、木戸番がそう言った、、、、、
「ねぇ、お勝さん、何があったの? 何を見たの?」
「あぁ、転がる酒樽の上で曲芸をしていた女、、、
 昔の知り合いのような気がしてね、、
 少し探ってみるから、お輝さん先に帰ってて。
 手代さんになんか聴かれても、とぼけていてね。」

もう床に入ろうかという頃、
手代が、いきなり腰高障子を開けて、、
「おい、お輝、お前、お勝の行き先を知っていただろ。」
「いえ、詳しくは、、、、」
「嘘を申すな。お勝と示し合わせて、とぼけておったんだな。」
有無を言わさずお輝を井戸端に引き立てる。
そこにはお勝が後手に縛られて、桜の樹に吊るされていた。
「あぁ、お輝さん。あたし、しくじっちまったよ。」
「こら、勝手にしゃべるな。
 お勝の盗みを知っていて止めなかったお輝も同罪だ。」
お輝に縄がまわり、お勝の隣に吊るされる、、、、

「お咎めぇ、お咎めぇ、、、、」
手代の声が裏長屋に響き渡る。
湯文字姿の女達が集まり、お勝とお輝を見つめている。
まさか自分が見られる立場になるとは思っていなかったお輝は、
爪先立ちでふらつきながら、腕の痺れに顔をしかめる、、
「お勝は見世物小屋に盗みに入ろうとし、捕えられた。
 本来ならば、番所に引っ立てられるところ、
 小屋主様の温情により、こちらに引き渡していただいた。
 又、お輝はお勝と謀り、その留守を申し出なんだ事、
 これも同じ罪にあたる、、」

「お輝さん、ごめんよ。
 でもさ、あの見世物小屋、
 番所に突き出すことができない訳があったのさ、、、」
お勝も揺れる縄にふらつきながら、お輝に囁く、、。
お咎めぇ、、、、、
「よって、両名、鞭打ち五十とする。
 鞭打ちは、ここにおいでの小屋主様にお願いする。
 お勝、お輝、流した血をもって、小屋主様に謝罪せい。」
着物の裾を後手の縄に差し込まれ、夏の夜風が肌を撫でる、、
お勝とお輝は、その尻を、湯文字姿の女達にはもちろん、
鞭を構える小屋主にも晒している、、、、、、

小屋主の竹鞭は容赦なく闇と尻を切り裂く、、
その痛みに耐えながら、お勝はお輝に囁き続ける、、、
「あの女は、やっぱり、お峰さんだったよ、、、ぐぁぁ、、」
お輝も、よろけながらも耳はお勝に向けている、、、
「昔のお針子仲間でさ、上女中になって生き人形で売られて、」
お勝とお輝に代わる代わるに鞭が飛び、
その呻きと叫びの中でも、お勝は囁きをやめようとはしない、、、
「旦那に飽きられて、売られ売られて、最後は見世物女だ、、
 木戸番が言ってた夜の出し物は、、、ぐあぁぁぁ、、、」
滴る血を尻に感じながらも、、、、、、
「女達の曲芸が終わるたびに、手を上げる客、、、、、」
尻の痛みに耐えられず脚を縮めると、腕が軋む、、、、
「あそこはさ、お上の知らない秘密の岡場所だったのさ。」
「じゃぁ、お峰さんも、、、、」
「あぁ、買われたよ、、一晩の夜伽、、、、ぎゃぁぁぁ、、、」

息を切らして小屋主が、鞭を放り投げた。
「小屋主様、お咎めご苦労様でした。
 さぁさぁ、母屋で一献、、」
鞭打ちは終わりらしい、、、




縄を解かれたお勝とお輝だけが井戸端に横たわり、
尻の痛みを夏の夜風にさらし、荒い息を続けている、、、、、

「たとえ生き人形でも、れっきとした女でぇ、
 飽きたとしても最後まで面倒見るのが道理だろうがぁ、、」

お勝の必死の叫びを聞く者は、お輝だけであった、、、



 ******** つづく ********  
 

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掌編人形屋秘譚 其の五


**************************

時の鐘 お勝

人形職人の定吉は、不機嫌であった。
「お勝、お輝。お前達のせいで、俺まで御叱りを受けたぞ。」
「申し訳ありませんでした、、、、、
 あたしのせいで定吉さんにまでご迷惑をかけて、、、、
 一生懸命働きますので、何でもお申し付けください。」
お勝が床に額をこすりつける。慌ててお輝もそれに倣う、、、
「番頭さんに叱られたのはな、、、
 お針子を甘やかすな、早くに仕事仕舞いするくらいなら、
 特別注文をしっかりこなせ、だとさ。」
「特別注文? じゃぁ、、
 定吉さんが、生き人形職人、、、、」
「いんや、俺は源三とは違う。
 俺は、女の魂を人形に沿わせたいと思っとる。
 女を人形にしたいとは思わん。
 人形を女するには、、、、、」
定吉が生き人形作りではないと、安心しながらも、
特別注文の細かい処までは分からないお勝とお輝、、、、
「どんなに似せて作っても、女と人形は違う、、
 着崩した襦袢を纏わせても、所詮それは人形。
 麻縄で乳房を絞り出した形にしても、やはり人形に過ぎない。
 女の息吹きを人形に注ぎ込みたい、
 卑猥な肢体の人形だからこそ、
 そこに女の羞恥と吐息を感じる、そんな人形を作りたい。」
売り飛ばされる事だけはなさそうだと安堵するお輝の隣で、
お勝は、身を乗り出すようにして定吉の話に聞き入っている。
「お勝、お前、なんでもすると詫びたな。
 お前、俺の人形の雛型になれ。
 お前の羞恥と吐息を俺の人形に吹き込む。」


朝から昼過ぎまでは、今までと変わりなく表店の仕事をこなす。
昼八つ、本所横川の鐘が鳴り出すと、定吉は道具箱を脇にやり、
麻縄を取り出し、襦袢姿のお勝に縄をかけていく。
それから、お勝を立たせたり座らせたり、膝を崩させたり、、、
「お輝、お勝の右乳をさらけ出せ、」
「お輝、お勝の乳をしゃぶり、乳首を硬くしろ、」
「お輝、膝をもう少し開かせろ。
 お勝の核をしゃぶり、いい声で鳴かせてみろ。」、、、
そうしながら、定吉自身の心像を模索し続けている。
お輝は、命じられるままにお勝の羞恥と吐息を引き出す、、
定吉は、筆を走らせ半紙に下絵を描いている、、
描いては破り、描いては破り、、、
お勝を縛りなおしては又、描き、、、、、、
そんな日々がしばらく続いた、、、、、

緊縛活人形の雛型に、、、、
八寸ほどの檜の材にお勝の緊縛絵が描かれている。
「お輝、この寸法で襦袢を縫え。
 俺は本腰を入れて、緊縛活人形作りを始める。」
「定吉さん、襦袢、一生懸命縫わせていただきます。
 お人形の羞恥と吐息、、お待ちしております。」
定吉が目を上げる。
そこには檜材の下絵と同じ緊縛お勝が、羞恥と吐息を吐いている。

昼八つ、本所横川の鐘が三つの捨て鐘を鳴らしだすと、
お勝は、いそいそと帯を解き始める、、
お勝さん、変わったなぁ、、、お輝はそう思う。
定吉に緊縛されると、もううっとりとした瞳になるし、
半開きの口からは艶っぽい吐息と涎まで流している、、、、
惚れたのかな、、
定吉に惚れたのか、縄に惚れたのか、その両方になのか、、

大小そして様々な形の鑿を駆使して、緊縛人形を彫る定吉。
時々、緊縛お勝を見上げ、又、緊縛人形に目を落とす。
奇異な形にゆがんだ乳房も股間も、
鑢をかけ鮫皮で磨いて、襦袢を着せて縄をかけると、、、、
七寸五分の檜材に緊縛お勝が活人形になって息づいている。
「定吉さん、綺麗です。
 お勝さんの羞恥と吐息が聞こえてくるようです。」
「おぉ、いい出来だ。
 お勝、雛型役ご苦労だった。」

緊縛の縄を解くのももどかしげに、
お勝の股間に怒張を突き立てる定吉、、、

それはまるで、緊縛活人形を犯しながら、
最後の仕上げの、精を注ぎ込んでいるかのようであった。


 ******** つづく ******** 
 

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掌編人形屋秘譚 其の六


**************************

女知音 お勝とお輝

それから定吉は堰を切ったように、
次々と、緊縛活人形を彫り上げていった、、
お勝が月の障りになると、代わりにお輝が緊縛雛型になり、
少しずつ縄に酔う自分を感じては、それを否定もしていた。


長月十三夜、月見の宴が表店の広間で催されたが、
誰も、その栗名月を愛でる者はいない。
大店の旦那連中が愛でているのは、
やがて生き人形になるであろう腰巻一枚で酌をする上女中と、
これから始まる競り売りの五体の定吉緊縛活人形である。


緊縛人形の雛型役を終えて、ほっとしたのか気が抜けたのか、
そんな心もちのお勝とお輝であったが
「先日の競り売りで、あの活人形に破格の値がついた。」
二人の前に、定吉から熨斗布が差し出された。
「これは?」
「俺は手間賃に加えて祝儀まで貰った。
 これは俺からの気持だ。
 簪とか笄でも買ってくれ。」
ありがたく押し頂く二人に、定吉が続ける、
「ただなぁ、困った事が起こっちまった。」
「定吉さん、何でもおっしゃってください。
 あたしにできる事でしたら、なんでもお手伝いいたします。」
「ん? あぁ、お勝だけではだめだ。お輝も必要だ。」
「あい、二人で一生懸命励みますから、ご指示ください。」
「励みますかぁ、、、、女知音、、だぞ。」
定吉によれば、
先日の競りに負けた旦那が、
「よし、新たに儂が緊縛活人形を二体、特別注文する。
 おぉ、どうせなら、緊縛女知音人形がいいな。」
という事らしい、、、、
「あのぅ、定吉さん。おんなちいん、、ってなんですか?」
「女好きの女、男色、衆道の逆だな。」
「あたし、お輝さんとは仲がいいとは思いますけんど、
 好いた惚れたとは違いますし、、、」
「俺も、女知音なんぞ見た事もないから、
 緊縛女知音活人形を作るなんざぁ、無理難題ってことよ。」


又、あの日々が始まった。
昼八つ、本所横川の鐘が鳴り出すと、道具を片づける定吉。
湯文字姿で口を吸い、胸を揉み、貝を合わせるお勝とお輝、、
定吉の納を得るまで続く女知音、、、、、、
「駄目だな。お前達、本気で好きあっておらんだろ。
 とてもとても活人形に心を写す事などできん。」
「申し訳ございません。
 あたし、心底お輝さんを好いてみせます。」
惚れた定吉のためなら、本気の女知音も厭わないお勝であった。

いぶかしげなお針子仲間や下女中を尻目に、お勝は真剣。
昼間はいつも手をつないで歩き、夜は一つ布団で寝る。
湯屋の薄暗がりでの、いきなりの口吸いや乳揉み、、、、、
やがてお輝も、、、、
、、、貝を合わせながら腰を振る自分に驚いた、、、

女知音緊縛活人形、、、、
「おい、、、おい、、、」
定吉の声も聞こえず、女知音にふけっているお勝とお輝、、
「そろそろだな、、、、」
納得のいった定吉の仕事は、そこから一気呵成となった。
一本の檜材から、
後手に縛られ乳房をさらけ出し、
襦袢の裾を割って露わになる淫らな足腰が現れていく、、、、
それはまるで見世物小屋の手品を見るようだ、、、、

「ふぅ~、、」
数日後、定吉の大きなため息が、完成の合図であった。
一体でも、立派な緊縛活人形ではあるが、
もう一体をそれに沿わせるように並べると、
縛められ鞭打たれながらも、
互いを求めあう女知音緊縛活人形、、、、、、

木綿布で最後の磨きをかけながら、
その女知音人形に見惚れて、
つい、口吸いをしてしまうお勝とお輝であった。


 ******** つづく ******** 
 

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掌編人形屋秘譚 其の七

 
**************************

小間物屋 定勝 

定吉、お勝、お輝が、そろって番頭に呼ばれた。
「定吉、お前の女知音緊縛活人形、大店のお客様もお喜びだ。
 そこでな、ぜひ職人に会いたいし本物の女知音も見たいと、
 そんなお申し出があってな。
 挨拶かたがた、広間に顔を出してくれ。
 大店様に御目通りしておけば、これから仕事が増えるぞ。」
「番頭さん、ありがたいお言葉ですけんど、お断りいたしやす。
 女知音人形にすべてを写してありますので、それでご勘弁を。
 それに、お勝は俺の女房になる女ですから、、、、」
「定吉さん、、、、」
かしこまって伏せていたお勝が、驚いたように顔を上げる。
「そうか、女房の裸体を他人に晒すのは嫌だろうなぁ。
 それでは致し方あるまい。儂からお断りしておこう。
 女知音なのにお輝だけ、という訳にもいくまいしな。」



定吉とお勝のささやかな祝言が執り行われた後、
定吉は、近くに間口二間ほどの小さな店を与えられた。
分家というわけではなく、緊縛活人形の作業場である。
評判が評判を呼び、定吉は緊縛活人形専門の職人となったのだ。
表店の狭さに比べ裏の作業場は驚くほどに広い。
世間体もあるので、『小間物屋定勝』という名をつけて、
お勝が足袋や風呂敷などの小間物を売っている。

小間物屋定勝は、店仕舞いがとても早い。
夕の七つにはもう暖簾をおろし、雨戸をたててしまう。
そして、雨や嵐の日には、店を開ける事もしない。

夕の七つ過ぎ、雨の日、風の日、嵐の日、
必ず小間物屋定勝に通う女がいた。
そう、お輝である。
お針子仕事をしながら、刻がくるとここに通っている。
番頭からもそう命ぜられていたし、お輝自身もそれを望んだ。



木枯らしで冷え切った体に、差し出されたお茶が心地良い、、
「お勝さん、どう? 新婚の気分は、、、」
「うん、なんか落ち着いた気はするけんど、、、
 あんひと、仕事ばっかりでさぁ、
 まともに抱いてくれないのよ、、、、」
「夜伽はないの?」
「そうじゃなくてさ、抱いていただく時は、
 いつも縛られてるの、、、、」
お輝はそれをお勝の『のろけ』と聞いた、、、


「おぉ、お輝、来てたのか。
 お勝、いい事を思いついたぞ。
 緊縛人形の端材を焚き木にするのが惜しくてな。
 何かに使えないかと考えてたんだ。
 これで、根付を作ったらどうかなぁ、、、」

また仕事の話だ、、、、
そんな意味を込めてか、お勝がお輝に頷く、、、

根付の雛型になって、、、、
小さく丸まるように緊縛されて、
お勝とお輝が、根付の雛型にされている、、、
これ、、小間物屋で売るわけにはいかないかなぁ、、、、
窮屈な姿勢で縛られながら、お輝はそんな事を考えている、、、





先日の晩も『お披露目』があって、
過日、上女中になったお針子と下女中が、
あられもない肢体を桜の樹の下に晒して、売られていった、、
お輝は、幸せを感じている。
こうして定吉の緊縛雛型でいるうちは、
源三の『生き人形』にされて売り飛ばされることはないだろう。


もうすぐ正月がくる、、、
めまぐるしいほどの一年だったと、
縄の痺れを味わうように噛みしめるお輝であった。



 ********  完  ******** 

**********************************

じつを言えば的あとがき

じつを言えば、
男社会の大店主人の身勝手さと、
それに翻弄される女達の悲惨な末路、、、、
そんな、女工哀史的な展開もありかなぁ
と思っていたのですが、
私自身の構成力や文章力がおぼつかないのはもちろんの事、
気分的にも、
あんなにはしゃいでいるお輝に悲惨な末路を見せるのが辛くて、
安易なハッピーエンドに落ち着かせた、
というのが、本当のところであります。


『人形屋秘譚』、、長くなりましたが、
もう一話だけ、書かせてください。
明日、アップします。どうかお付き合いのほど、
お願いいたします。

 

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掌編人形屋秘譚 奇聞

『人形屋秘譚』其の八、と言いたいところでありますが、
蛇足的物語なので、奇聞、、としました。

少しのお付き合いを。
一話完結であります。


**************************

騙し絵 お礼 

買い出しの帰りなのか、背負い篭に野菜を入れた女が、
小間物屋定勝の店先で売り物の風呂敷に見入っている。

「不思議な柄ですね。」
「えぇ、お客様の心の按配で、なんにでも見える不思議絵です。
 一枚いかがです。ここでしか売っていませんよ。」
お勝が、さりげなく風呂敷を開いてみせる。
「お礼さん、早く帰りましょ。
 いまごろ賢兵衛さんが、痺れを切らして唸ってるわよ。」
連れの女に促されて、帰りかけるが、
「じゃぁ、これとこれと、、、、この四枚くださいな。」
お礼と呼ばれた女が、悩みながら四枚の風呂敷を買った。
この女、、、気づいている、、、お勝は、そう感じた。
お礼が選んだ四枚が、まさにそれを示している。
それとも単なる偶然がなせることだったのか、、、、
「お春さん、ごめんごめん、急いで帰りましょ。」
二人は北之橋を渡って、五間掘り方に去っていった。


夕の七つ過ぎ、いつものようにお輝がやって来た。
待ちかねたようにお勝が話し出す。
「あの風呂敷、四枚揃いで買っていった女がいたわよ。」
「へえぇ、、気づいたのかしら。」
「おそらく、、、」

元々はお輝の発案であった。
定吉の巧みな緊縛下絵を反故にするのが惜しくなって、
風呂敷の絵柄にしたのだ。
一枚の風呂敷に緊縛下絵の一部を入れ、、
周りに不思議な文様を染め抜く。
それだけ見たのでは、花のようでもあり蔦のようでもあり、
風に飛ばされる落ち葉のようでもあり、、、、、。

ところが、風呂敷を五つに折りたたみ、
四種の風呂敷の角を突き合わせると、
しっかりと定吉の緊縛下絵が現れてくる、、、、
これまで、不思議な絵柄というだけで買い求めた客はいたが、
その騙し絵を見抜いた客はいない。

躊躇いながらも的確に選んだ騙し絵四枚の客、、
「その女、どこの女?」
「さぁ、五間掘り方に行ったわ。」
「あたし、、、一度会ってみたい気がする、、、」

騙し絵を見抜いた女、、
同類の匂いを本能的に嗅ぎ分けたお輝であった。


     騙し絵の風呂敷、、、、


 ********  完  ******** 

**********************************

じつを言えば的、蛇足のあとがき 

じつを言えば、
お勝、お輝と、居酒屋賢兵衛のお礼、お春の絡みを、、、
という狙いが最初はあったのであります。
それで、人形屋も六間掘りに在る、という設定にしたのですが、
いかんせん、四人が絡む必然性を思いつかず、
こんな小話に落ち着いてしまいました。
まぁ四人が絡んだとしたら、とんでもないSM譚になりそうで、
個人的には、ワクワクしながらも、
読者の皆様に納得していただける展開にするのは難しそうだと、
密かに、風呂敷に仕舞ったままの、今の私であります。



ありがとうございました。
じゃぁ、又。         レイ


 

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掌編居酒屋賢兵衛 一口話

今日はちょっと寄り道。

「土偶(どぐう)と言うから、木偶(もくぐう)でも間違いじゃないが、
 やっぱり、でく、って読んで欲しいなぁ。
 ほら、木偶の坊って言うだろ。あのデクだよ。」
かつてそんな会話があって、
木偶人形自体に罪はないものの、
否定的に使って、物語になりそうだぞ、って思い続けてきた。
満を持して、、と言うほど完成された物語ではないけれど、
居酒屋賢兵衛にからめて、小話を書いてみた。
江戸話を書きたいのに、うまい題材がなかった、、
というのが本当のところかもしれないけれど、、、

初めてこの江戸物をお読みになる方は、
居酒屋賢兵衛をご一読いただけると幸いです。


一口話ですので、一話完結です。
ご用とお急ぎでない皆様、しばしのお時間を、、


************************

木偶人形

「御主人、この娘で、もう一本、飲ませてくれんか。」
「いえいえ、掛け売りはお断りしておりやす。」
「掛けではござらん。代金はこの女だ。」
「お客様、うちは質屋ではありません。
 たとえ質屋であっても、生ものは扱いかねるでしょう。」
「いや、元来がこの娘、借金のかたで手に入れたもの。
 いわば、質流れの品。木偶人形と思ってくだされ。
 子供が遊ぶ木偶人形もあれば、大人が遊ぶ木偶人形もござろう。
 ほれ、このようにな。」

「ほう、、、これはこれは、、、
 して、この質草木偶人形をあっしが質預かりしたとして、
 質受けはいかようになさりますか。」
「流してくれてけっこう。この木偶は、もう飽きたからなぁ。」
「それではこの娘、薄幸に薄幸を重ねるようなもの。
 あまりに理不尽で哀れではござんせんか。」
「いや、この娘、縄で縛られ虐げられて悦ぶ被虐の性なれば、
 御主人、煮て喰うなり焼いて喰うなり、
 質草でどこかに売り飛ばしても、ご存分に。」

「お礼、一升徳利、持ってきな。
 お客様、この一升で、確かに質預かりいたしやした。
 質流れでよいってなら、質札は出しませんぜ。
 そして、、、、、
 その徳利を返せとは言わんで、さっさと帰ってくだせぇ。
 情の無ぇ男は男じゃぁねぇ。
 二度とここに顔を出すんじゃねぇぜ。
 お春、塩撒きな。」



「ありがとうございました。あたし陸と申します。」
「郷はどこだ。」
「戸田の渡し近くの水呑み百姓の娘でしたが、
 あたしが借金のかたに取られた後、
 お父ぅもお母ぁも、兄ぃも、離散したと風のうわさで、、」
「それでは、お陸は、これから独り立ちせねばいかんなぁ。」
「どうせ、あたしは木偶人形で生きてきました。
 なんとかなります。どこかに売り飛ばしてください。」
「どうせ、、とか言うもんでない。
 自分を安売りするな。
 有馬屋の番頭が下働きの娘を欲しがっていた。
 そこを紹介してやるから、地道に働け。」
「あたしなんかが、まっとうに働けるでしょうか。」
「世間の闇と底を覗いちまったお前だ。
 あとは、前だけを向いて生きていきな。
 もし、お前の被虐の性が疼いたら、藪入りにでも尋ねて来い。」
 お礼やお春と一緒に虐めてやるから。」



有馬屋の番頭から、真面目に働いているという話は聞いたが、
藪入りの日に、お陸がここを訪れる事はなかった。
「うん、それでいい、、、」
お陸の小さな幸せを願う賢兵衛であった。



 ******** 完 ********


***************************************

哀悼のあとがき


居酒屋賢兵衛は、宇江佐真理さんの『鳳来堂』を真似ている、
と、かつて書いた。
連作長篇『夜鳴きめし屋』である。
そのなかの『五間掘りの雨』から雨のイメージをいただいた。

その宇江佐真理さんが昨年11月にお亡くなりになった。
遅ればせながら、市井の片隅より哀悼の意を捧げます。


江戸に詳しいわけでもなく、新しい発想ができるわけでもないので、
『居酒屋賢兵衛』にしがみついて、
これからも江戸物を書いてしまうに違いない私。
素敵な遺産をお分けいただいたと、勝手に解釈いたしております。


こんな卑猥なブログで申し上げるのも気が引けますが、
安らかにお眠りください。

                   レイ


 

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掌編縄雨捕り物控 捕り物其の一

今日はちょっと寄り道。

「一かけ二かけ三かけて
 仕掛けて殺して日が暮れて
 橋の欄干腰おろし はるか向こうを眺むれば
 この世は辛いことばかり
 片手に線香 花を持ち
 おっさんおっさん何処行くの
 私は必殺仕事人  中村主水と申します。」
突然、ハルさんが唄うように語り出した。
なにそれ。
「先日さ、大先輩とランチした時に、
 藤田 まこと『必殺仕事人』の話になっちゃって、
 当然ながら、私はついていけなくてさ、
 でも、一応チェックしてみるかなんて、YouTubeしたら、
 これがなかなか面白くてさ。」
という流れだったらしい。

「ねぇ、レイさん、まだ江戸物書いてるでしょ。」
うん、なかなかまとまりがつかないけどね。
「じゃぁ、スピンオフって感じでさ、
 岡っ引茂蔵が仕える同心の物語は?」
中村主水みたいに?
「そこはそれ、レイさん流のSM譚にもってくのよ。」


しばらく前に、こんな会話がありまして、
それ、面白いかもしんね、と思ったのですが、
 『お上から十手を預かってこのかた、
  強請りたかりはもちろん、袖の下も断り、
  俺が信じる正義を貫いてきたと自負してる。』
なんぞという、正義感あふれる岡っ引茂蔵と、
彼が仕える同心の物語かぁ、、、どんな上司なんだろう、
って、困ってしまった次第であります。


まぁ、とりあえず、一話完結連作掌編風に綴ってみました。
ご納得いただけるかどうか、愚作四編ほどですが、ご笑納を。




************************

兄嫁 お光



長兄が父の同心稼業を継いで嫁をとった時から、
槙次郎は、『次男の穀潰し』という身分になった。
長姉、次姉は早々と嫁いでいたので、
槙次郎は一人、長兄宅で無頼な生活を送った。
生計の道を探すふりをしながら、無役の閑人を楽しんでもいた。


あの江戸中を蹂躙した流行り病が槙次郎の人生を変えた。
病に倒れた長兄を看病する兄嫁も同じ病に倒れ、
その二人を看病した父母も、同じ病で命を落とした。
結果、槙次郎が得たものは、
同心の手札と八丁堀の役宅と、父母の隅田川先の隠居家
長兄が使っていた岡っ引き茂蔵、そして、、、、
病に倒れながらもどうにか生き延びた兄嫁お光。
兄嫁といえど、槙次郎よりは年下。まだ子もいなかった。
葬儀や諸々の雑用が一段落し、
槙次郎が奉行所、与力への挨拶廻りを終えた日、
お光が、槙次郎の前に三つ指をついて、
「短い間ではございましたが、お世話になりました。
 郷に帰らせていただきます。」
お光の実家の事はよく知らない槙次郎であったが、
祝儀の時のお光の父母の安びた着物を思いだし、鎌をかけた。
「おめぇが戻っても食い扶持が増えるだけで、いやがられないか。」
「あい、、、、。裁縫でもして、生計をたてます。」
「おめぇがよければ、俺が面倒を見てやる。」
「えっ、、、、槙次郎様の嫁になれとおっしゃるのですか。」
「いんや、俺は嫁をとる気はない。女中として、使ってやる。」


五勤一休の決まりはあったが、
難事件でもあれば二六時中働き詰が同心の立場であった。
しかし、槙次郎は彼なりの理屈を持っていた。
「雨の日は、悪党も休みたがる。」
西の風を頬にあて、風の匂いを嗅ぎだすと、
傍らの岡っ引きの茂蔵が、こう言った。
「旦那は、明日、休みですかい。」
「おぉ、今晩から降り出して、明日は一日雨だな。
 須崎に行くから、なんかあったら、下っ引を寄こしてくれ。
 俺は、休みだ。」



隅田川の向こう須崎に父母が使っていた隠居家がある。
今では女中になったお光を連れて、須崎に向かう。
浅草寺に詣り、仲見世で菓子を買うころまでは、
小娘のようにはしゃいでいるお光も、
東橋を渡り、隅田川を越えると急に無口になる。
初めてお光を抱いた晩を思いだす。
逃げ惑うお光の手首を襦袢紐で縛りつけると、
途端に抵抗が無くなり、やがてお光は息を荒げてきた。
秘所はすでに柔らかに溶けだし、
突き刺された怒張で、近所をはばかるような喘ぎを見せた。
次に抱いた時、槙次郎は試しに捕縛の縄を使ってみた。
麻縄が乳首をかすめただけで、
お光はもう立ってはいられなかった。
引き出された自分の被虐の性に驚きながらも、
その性を隠しもせず槙次郎にすがるお光であった。


須崎の隠居家は、雨戸をたてたままである。
降り出した雨で、中の様子はうかがい知れない。
夕餉と酒の用意をしていたお光は、
槙次郎の麻縄を捌く音が聞こえると、
静かに着物を脱ぎ、後手に手を重ねた、、、、、



槙次郎は常々思う、
同心になって初めての捕り物は、このお光だったかも知れんなぁ、



 ******** つづく ********

 

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掌編縄雨捕り物控 捕り物其の弐

************************

掏摸(すり) お吟 

「明日から祭かぁ、、大雨でも降らんかなぁ。」
槙次郎の溜め息に、板場で裁縫するお光が苦笑をもらす。
「二年ぶり、皆が楽しみにしている神田明神様のお祭りですから、
 そんな事、おっしゃるものではありません。」
今でこそ槙次郎の女中ではあるが、元々は兄嫁。
時々、母親のように槙次郎をたしなめたりもする。
「雨となれば、人混みも減って、喧嘩も掏摸もなくなる。」
「そのお役目でお給金いただいてるんですよ。」
「たかだか、参拾俵二人扶持だぞ。
 大雨になれば、須崎でおめぇを逆さ吊りに縛れるのによぉ。」
「あいあい、それができるのも、
 しっかりお役目を果たしてからですよ。」
もちろんお光も、雨を待つ一人ではあったが、、、、


三十六台の武者山車が町を駆け巡る。
それを見ようと人が集まり、掘立出店が軒を連ね食い物を売る。
人が集まれば、喧嘩が始まり、掏摸が横行する。
槙次郎にとってはあいにくの晴天であった。

何件かの喧嘩を仲裁し、何人かの掏摸を取り押さえて、
木陰で大息をついた時、その女が槙次郎の目にとまった。
飴細工屋の前に人だかりができている。
その女はいかにも後ろから押されたふうに装って、
前の男の巾着の紐を切り取り、
その巾着を自分の袂に入れようとした。
槙次郎はその手首をつかみ、素早く取り押さえた。
見れば、女はまだ若い娘であった。


自身番に番頭が飛び込んでくる。
「こちらは妙義屋のお吟お嬢様。
 悪い奴らにたぶらかされて、こんな事をしちまって。
 どうかこれで、お目こぼしを。」
袂の重みが、五両と言っている。
「番頭はん、お吟の手業は素人同然。ほんの遊び心だろう。
 おめぇがしっかり更生させるんなら、今回だけは許す。」
捕縛の縄を解いても、お吟は呆けたように立ち上がれずにいる。
番頭と女中が抱えるようにして、やっと帰っていった。




師走の声を聞くと、誰もかれもがせわしなく小走りだ。
町廻りの槙次郎に、一人の女が声をかけてきた。
「えっとぉ、おめぇは、、妙義屋お吟。」
「今は、蝋燭問屋山城屋のお吟ですけどね。」
番頭の更生手段は、嫁がせる、、という事だったらしい。
「その若女将が、いったい何用でぇ。」
「ちょいと槙様にご相談があって、、、。
 お恥ずかしい話ですけんど、あたし、、、、
 槙様の捕縛の縄が忘れられないんです。
 今だって、その懐の十手を掏ったらまた縛っていただけるかと。」
自身番で、緊縛に酔うお吟の姿を思いだす槙次郎であったが、
「そんな事ぁ、俺の知ったこっちゃねぇ、旦那に頼みな。」
「それができないから、こうしてご相談を、、、、
 内の旦那は、吝嗇で堅物で、跡継ぎを作る事だけ考えて、、
 女の悦びなんてどうでもいい人なんです。
 女からこんな事をお願いするのは、変態でしょうか、
 不貞なんでしょうか。」
「変態でもそれが自分の性の癖なら、いたしかたあるまいよ。
 不貞かどうかなんて事は、自分で決めるこったな。」



「雪か、、、」
槙次郎の観天は少し外れた。
須崎の隠居家には冷たい氷雨が降り続いている。
雨戸が閉ざされた薄暗い板場、
天窓からの明りだけで、二匹の牝が緊縛を受けている。
一匹はもちろん女中のお光。
そしてもう一匹は、そう、山城屋お吟であった。
お光のあられもない喘ぎに対して、
お吟は、後ろ手にきつく縛られながらも、凛と背を伸ばして、
時に小さな吐息をもらしながら、縄に酔っているかのようだ。

お吟はこの緊縛の快感を思いだしながら、旦那に抱かれるのか。
元気な、いい子を産めよ。
お吟の行く末に幸多からんことを願う槙次郎であった。



 ******** つづく ********

 

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掌編縄雨捕り物控 捕り物其の参

************************

藪入り お紗夜 

「槙様、槙様、、、どうされました、、、」
夜具が揺れ、女が香り、夜気が滑り込んでくる。
「おぉ、どうした。」
「どうしたじゃぁありません。
 槙様、ひどくうなされておいででしたよ。」
「あぁ、そうかぁ。今、何刻だい。」
「さぁ、明けはまだまだ。八つくらいでしょうか。」
「寒いな。」
「あい、昨夜半からの雪がまだ続いております。」
お紗夜が不器用な手つきで槙次郎の肩に掻巻をかける。
「おめぇ、その手首の紐はどうしたんでぇ。」
「どうしたじゃぁありません。
 槙様があたしを縛って、事をなさったんですよ。」
「あん時の紐、おめぇまだ解かねぇんかい。」
「惚のじのお方に縛っていただいたのですもの。
 外すのがおしゅうて、、、、」
「おめぇ、もしや、武家の出かい。」
「いやですよぉ。
 女郎の過去なんて、探るもんじゃありません。」
「まぁ、いろいろあったんだろうなぁ。」
「今日は藪入り。槙様もお忙しくなりますねぇ。」
「そうでもなかろう。、郷がある奴は郷に帰っちまっただろうし、
 帰る処のない小僧も、この雪じゃ、町をふらつくこともあるまい。
 よし、決めた。今日は休みだ。
 お紗夜の尻と雪見をしながら酒を呑むことにする。」
「同心様がそんな無精でよろしいんですかい。
 あたしぁ槙様とご一緒できて、何よりですけんど。」
「なぁに、俺が女郎部屋でのんびりできるのは、
 世の中が太平の証さ。なんか事あれば、
 岡っ引きが必死になって俺を探してくれるだろうよ。」
料理茶屋という看板の陰で、二階では女を売る御法度の店。
槙次郎は、辛い捕り物があった時は、八丁堀の役宅には帰らず、
ここでお紗夜を縛り、鬱憤を晴らす。


朝四つを過ぎても、まだ雪は降り続いている。
「槙様、夜中にあんなにうなされて、、、
 又、お辛いことがあったんですか。」
後手に縄をかけている槙次郎にお紗夜が聞いた。
「植木職人が、閉め忘れた蔵の錠前を見かけちまってよ、
 つい出来心で、三十両ほど盗んじまってな。」
縄尻を鴨居に掛け、お紗夜を立たせる。
「三十両、、なら、、、死罪ですか。」
「おそらくな。」
そう言いながら、前かがみのお紗夜の尻を平手打ちする。
「その植木職人を捕えたのが、俺なのさ。
 金が失せた時、そこにいたのは家人と職人だけでな。
 下手人はすぐに分かっちまう、ってもんだろう。
 長屋に踏み込んだら、涙を流しながら震えていたんだ。」
傍らの蝋燭をお紗夜の尻に垂らす。
「あっつ、、、しゃ、酌量の余地はないんですか。」
「あぁ、俺もその旨、与力様に伝えたがよ。
 あとは、奉行様の御沙汰一つってとこかな。」
「今月は、、、」
「北町のお奉行が当番だ。
 もっとも、死罪となれば、決めるのは老中様だがよ。」
仁王立ちでお紗夜に一物を咥えさせる。
「よごがかには、、、
 世の中には本当の悪党が沢山いるのに、、、、」
「そうよなぁ、江戸払い程度で、おさめてくれんかなぁ。」
背後からお紗夜を貫く、、、、
「地道に働く善人が、ふとした気の迷いで、金を盗む。
 自分が犯した罪に気づいて震えてしまう、、、
 俺は、あの職人の涙が忘れられんのよ。」
怒りをぶつけるように、
槙次郎はお紗夜を激しく犯し続ける。
「きた、、北町奉行様、、、
 おな、、お情けのある、、お、お裁き、、
 、、、だといいですねぇ。」



 ******** つづく ********

 
 

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掌編縄雨捕り物控 捕り物其の四

************************

旗本女房 お篠 

「これはこれは、お篠様。
 わざわざ旗本の奥様に御足労いただいて、申し訳ありませぬ。」
「いえ、うちの女中が粗相をはたらいたとか。
 女中の粗相は主人の咎、主人の咎は妻の咎と申します。
 して、お静がなにをしでかしたと、、」
「なに、小間物屋で間引き盗みをしているところを、
 拙者が見つけてしまいましてな。」
「なんと、間引き盗みとは、、、。お代は。」
「品は店人に分からぬよう返させましたので。」
「なにかの気の迷いに違いありませぬ。
 あたくしが言い聞かせますゆえ、ご容赦を。
 連れて帰りますので、お静はどこに。」

槙次郎が奥に案内すると、
そこに、あられもない乱れ着物で縛られているお静。
「品は返したとおっしゃりましたよな。
 何ゆえにこんな辱めを受けねばならんのじゃ。」
「拙者も説諭のみで帰そうと思ったんじゃが、
 念のために調べたら、出るわ出るわ、
 懐、袂、帯から、簪、匂い袋等々、、、全部で十二品。
 それで、結局こんな格好になった次第でござる。
 女には隠す処が沢山ありますゆえ、、、、」
「女に鞭敲きは御法度のはず。」
「これは説諭の鞭、刑ではござらぬ。
 よくよく問いただしてみますと、、
 月の物が近くなると、間引き盗みをしたくなるとの事。
 その背徳の身震いと興奮が快感になると、、、
 そしてその快感は、、お篠様、あんたから習ったんだそうで。」
「そ、そ、それはお静の言い逃れにちがいありませぬ。
 それに町同心、不浄役人の分際。
 たかだか十文二十文で、あたくしに嫌疑をかけるなど、言語道断。」
「いえいえ、嫌疑ではござらん。
 たんだ、旗本の奥様には理解できんでしょうが、
 商人はな、間引き盗みされた品の十文、二十文から儲けを得て、
 つつましく生活してるんだぜ。
 どうやら、奥様にも説諭が必要でしょうかねぇ。
 よし、お篠、脱げ!。 俺が説諭の鞭をくれてやる。」

裸体を晒したお篠とお静を見比べながら、茶をすする槙次郎。
やがて、羞恥に火照る二匹を交互に鞭敲きしだすのであった。





「おぃ、お光、、、おぃ、、、お、み、つ、、、
 おめぇ、こんな話で、興奮してるんか。
 ここをこんなに濡らしちまって。
 嘘だよ。全部俺がでっち上げた妄想話さ。
 いくらなんでも、旗本の奥様にそんな事、できねぇだろ。」
差し込まれた槙次郎の指先で、さらに股間が溶けるお光。
「つつましさのない淫乱女だな。
 その咎により、鞭敲き三十の刑に処す。」
「槙様、、女中の咎は主人の咎と、、、、」
「おぉ、よく申した。
 主人の咎もお前にくれてやる。鞭敲き六十の刑じゃ。
 尻を突き出せぇ。」




 ******** つづく、、 かもしれません、、********

 
 
**************************
ハルさんの感想的あとがき


「いいねぇ、やっぱ正義感が強い岡っ引きの上司には、
 ふしだらさ漂う同心がいいよね。
 たださ、岡っ引き茂蔵の登場が少ないよ。
 ふしだらな槙次郎を苦々しく思いながら、
 でも、なぜか惹かれてしまう茂蔵、、、
 そんな描写も必要かもね。
 そこで物語に深みが出るってもんでしょ。」

はいはい、おっしゃるとおり。
この行数で書ききるのは難しいかもしんねぇけど、、


「もうちょっといえば、、、
 江戸の季節、風物、祭を折り込んで、って気分は分かるけど、
 やっぱ、わざとらしいな。
 さりげなく、あぁ、、って思わせるのがいいと思う。」

はいはい、ご説ごもっとも。
せっかく調べた風物だから、それを書きたくて書きたくて、
確かに説明的になってるかもしんねぇ。



「でもさぁ、素敵な前ふりだよね。」
前ふり?
「だって、深川から八丁堀なんて電車で、すぐじゃん。
 やがては、居酒屋賢兵衛とか人形屋と絡むんでしょ?」

うん、少しはそれも考えた。
江戸時代に電車はないけど、、、、
確かに、八丁堀、五間掘、六間掘は近いよねぇ、、、、
どう絡ませたらいい?





そんなこんなで、じゃぁ、又。       レイ

   

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掌編縄雨捕り物控 捕り物其の五

今日はちょっと寄り道。

「ねぇ、その後、シンジロウどうしてる?」
シンジロウ? 衆議院議員の小泉進次郎?
「ちゃうちゃう、江戸の同心、槙次郎よぉ。」
どうしてる? って言われても、、、、
「ちょっと見てきてよ。」
見てくる?
「ほらぁ、昔、レイさん江戸にタイムスリップしたじゃない。」

すっかり槙次郎ファンになってしまったらしいハルさん。
縄雨捕り物控のつづきか、居酒屋賢兵衛と絡めた新作を書けと、
やたらとせっついてくる。

ネタはいろいろ考えてるんだけど、
書き出すと短編長篇もどきになっちゃって、
なかなか掌編にまとめるのが難しいのよ。

まぁ、とりあえず、一話完結連作掌編風に綴ってみました。
ご納得いただけるかどうか、愚作四編ほどですが、ご笑納を。


************************

赤い房 槙次郎 

「旦那、お同心の手札を預かって、いかほどになりやす。」
「先日、内々で兄の三回忌の法要をしたんで、
 同心になって三年目、丸二年が過ぎた事になるなぁ。」
「それでは、そろそろ手柄をたてませんと、
 十手の赤い房が泣いておりますぜ。」
「茂蔵にそう言われては返す言葉もないが、
 腐れ同心といえども、庶民町民の役には立っておるぞ。」
「ですが、、、」
「分かっておる。
 茂蔵も、いつまでも赤房同心の岡っ引きでは世間体が悪かろう。
 紫房同心の岡っ引きは、羽振りがいいもんだからな。」
「いえ、そうは申しませんが、、、」
「ただな、俺の十手の房が紫になる時は、
 手柄を立てたっちゅうことだ。それも大手柄をな。
 大手柄っちゅう事は、血が流れ、人が死ぬ。
 そんな大立ち回りをするより、
 素手で小悪党を捕えてるほうが、楽っちゅうもんだろ。」
「出世欲のないお方だ。免許皆伝の刀が泣きますぜ。」
「おぉ、赤房十手も刀も、勝手に泣いておればよいわ。」



「お光、おめぇも俺の十手は紫房がいいんか。」
「組屋敷では羽振りが良くなるかもしれませんが、
 手柄をお立てになる時、槙様がお怪我されては大変ですし、
 それに、立てる手柄の無いほうが、天下泰平の証です。」
「おぉ、よくぞ申した。お光は赤が好きか。」



「槙様、何をしておいでです。殿方は厨房に入らぬものです。
 あたしがやります。」
「いんや、俺がやる。
 弁柄を煮立てておるのよ。」
「弁柄でなにを。」
「麻縄を赤く染める。
 先日、赤い麻縄で縛られたい、と申したではないか。」
「十手の赤い房の話だったのでは、、」
「房も縄も同じことだ。赤が好きだと申したろう。
 おぉ、煮立ってきたぞ、楽しみだな。
 赤い縄がお光の白い肌によく似合いそうだ。」



 ******** つづく ********


 

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掌編縄雨捕り物控 捕り物其の六

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辻斬り 槙次郎 


「槙様、刀の柄巻がほつれております。」
八丁堀宅に帰った槙次郎から二本ざしを受け取りながら、
お光がそう言った。
「おぉ、五間掘りの居酒屋で茂蔵と呑んだ帰りに、
 辻斬りにあってな。」
「辻斬り、、、ですか。お怪我は。」
「怪我と言えば、その柄巻だけだ。」
「伊崎神道流の達人と知っての狼藉でしょうか。」


三河松平屋敷近くの暗がりであった。
「酒井槙次郎殿とお見受けいたす。お手並み拝見。」
夜目に切っ先が光る。
体を捻り一撃をかわした槙次郎、
刺客の二の太刀が来る前に間合いを詰め、抜刀の構え。
「したり、、」
このまま刀を抜けば、確実に相手は死ぬ。
しかし槙次郎は抜かなかった。
間合いの狂った刺客の切っ先を刀の柄で跳ね返す。
刺客は、たたらを踏んで、そのまま走り去った。


「俺も少しは酔ってたんで、追う気にもならんかった。」
「物取り、、、、」
「俺の名を呼んだから、物取りではなかろう。」
「それでは、遺恨、、、。槙様、なにか思い当たる節は。」
「小悪党や木端には恨まれてるかもしれんが、
 武士に命を狙われる覚えはないな。
 もっとも、どこぞの女が武士を雇って恨み打ち、、
 そんな事もあるかもしれんがな。」
「おなごに恨まれるような覚えはあると、、、」
「そう怖い目でにらむな。冗談だ。
 どれ、柄巻を巻き直すとするか。」

ほつれた柄巻を同じ黒糸で補修する槙次郎。
「なかなかの手際ですねぇ、」
「わけも分からず褒めるな。俺は職人じゃねぇぞ。
 世間様に恥ずかしくないほどには直さんとな。
 やがては柄巻師に頼まんといけんがな、、、」
「茶をいれます。」
茶を運んできたお礼の腕をつかむ。
「脱げ。柄巻きしていたら、おめぇを縛りたくなった。」



逆手の伸腕後手縛りで身動きがとれず、
肩の痛みと戦うお光を背後から犯しながら、
「辻斬り禁止のお達しがあったのは遥か昔。
 その御法度を破ってまで、辻斬りする訳が分からん。
 それに、、、」 
槙次郎の思見は長くは続かない。


お光の淫らな喘ぎが、槙次郎の思考をさえぎり続けている、、、、




 ******** つづく ********


 

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掌編縄雨捕り物控 捕り物其の七


***********************

抜かずの刀 槙次郎


「槙様、あたくし、心配でたまりませぬ。
 その後、刺客に襲われるようなことは、、、」
「ないな、
 ないが、奇妙な噂が飛び交っているようだ。」
「どのような、、」
「名のある流派の剣術士に手傷を負わせたと、
 自分の剣の腕を誇り、仕官の道を得ようとする輩がおると。」
「あの辻斬りも、仕官を望んだ狼藉だったと、、」
「そんな処かもしれんな。」
「たとえ、槙様に手傷を負わせたとしても、
 仕官なんぞできますか。」
「今の世の中、浪人の肩身は狭い。
 手だれの武士とて、田舎大名のお相手がせいぜい。
 剣で生きようと思えば、町の剣術道場か、、、」
「剣では、まともには生きていけませぬか。」
「権現様の時代ならともかく、今、戦乱があると思うか。
 武芸よりは、算術、学問が仕官の早道であろうが。」

「それでは、槙様はなにゆえに剣を鍛えておいでですか。」
「お役目がら、刀が必要な事もあるかもしれんが、
 俺は刀を抜かぬために、剣術をしておる。
 剣を極めれば、敵の息づかいを知り、間合いを見切り、
 素手でも戦えると信じておる。」

「刀を抜くことはありませぬか。」
「いんや、抜くこともあるかもしれん。」
「同心として、、」
「違うな、
 お光を縛った縄が首に掛かり、死にそうになった時に、
 その縄を素早く切り落とし助けるためじゃ。」
「あまりにそれでは、名刀が泣きまする。」
「いんや、俺の刀は血が嫌いなのじゃ。
 敵の血より、おなごの股ぐらの汁を欲しているのよ。」



 ******** つづく ********

 

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掌編縄雨捕り物控 捕り物其の八

************************

商人 槙次郎 

「浪人とまでは言わんでも、
 兄上が生きておれば、俺とて、部屋住みの次男坊。
 兄嫁お光の尻の丸みを、密かに眺めていたかもしれんな。」
「あの方の死を貶めるような言い方は、およしください。」
「貶めるつもりはないが、これが人の世の廻りというもの。
 お光とて、廻り廻って俺の女中になり、
 廻り廻って己の性の癖に気づいたのであろう。」
「いいえ、槙様に無理やり手籠めにされ、
 無理やり縛られたのでございます。」
「おぉ、そうか。それではそういう事にしておこう。」
「槙様は、お同心にならなんだら、何をされておられました。」
「そよなぁ、兄上とお光に子でもできれば、
 たちまち俺は厄介叔父になっちまうからなぁ。
 いっそのこと、剣を捨て商人にでもなったかな。」
「それでは、伊崎神道流が泣きまする。」
「しょせん剣は武士のたしなみ。
 剣で飯は食えんと申したであろう。
 同心なんぞ、二本ざしで偉そうな顔をしているが、
 一生このままの同心暮らし。与力になる事もありえん。
 商人なら、好きな事ができるっちゅうもんであろう。」

「商人なら、どんな御商売を。」
「そうよのう、、、、何がよいと思う。」
「商いは、飽きない、でございます。
 お得意な事、お好きな事をなさるのが一番かと。」
「そうじゃの。では、、、、『麻縄屋』でもやるか。」
「麻縄屋、、」
「弁柄で染めた赤い麻縄を売るのよ。
 頼まれれば、縄で縛ってやるのも商売になるやもしれん。」
「誰がそんな事を頼みますやら。」
「いんや、お光のような被虐の性を持つおなごもおろう。
 おぉ、山城屋お吟も、縄に酔うおなごであったろうが。
 秘密厳守ということで、人妻縛り、、、
 なかなかいい商売だとは思わぬか。」
「思いませぬ。
 できうれば、あたくしだけを縛って欲しく思います。」
「なんだ、妬いておるのか。
 いたし方ない。商人はやめにしておく。
 その代わり、お光を徹底的に縛る事にするか。」


 ******** つづく ********

**************************

ハルさんの要望的あとがき

「うん、槙次郎の人となりは見えてきたなぁ。
 次は、茂蔵を集中的に書くとか、
 推理小説的に捕り物を展開させるとか、
 あぁ、お光がマゾに目覚めるまでの過去を書くのもいいね。
 さりげなく五間掘りの居酒屋で飲んだ帰りに刺客に襲われた、
 なんて居酒屋賢兵衛とのつながりもできたし、
 そろそろ、お礼、お春とからませてもいいし、、、
 なんか、もっともっとおもしろくなりそう、
 期待して待ってるわ。」


まぁ、私なりに楽しんで書いているから、
ご期待は嬉しい限りでありますし、
色々なアイディアも参考にさせていただきますけれど、、
一番の問題は、これがSM掌編だって事であります。
推理小説的捕り物も考えたのではありますが、
なかなかSMシーンを盛り込めずに、
今のところお蔵入りしているというのが本当のところで、
はてさて、今後どうなりますことやら、
書き手自身、何も見えずに、
登場人物が勝手に動き出すのを待っている今の私であります。


じゃぁ、又。          レイ

 

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